ファーストキャリアの選び方 「本当にやりたい仕事」にたどり着くための、会社選びの7つの基準:榊巻亮の『ブレイクスルー備忘録』(2/2 ページ)
「本当にやりたい仕事」とは、会社に入った後、仕事でいろいろな経験を積みながら、自分の好みや強み、得意・不得意などを見極めて見つけるもの。その仕事にシフトしていくには「ジョブチェンジ・転職に困らない能力」を身に付ける必要もある。その過程を見越した「会社選びの7つの基準」とは?
「ジョブチェンジ・転職に困らない能力」とは何か?
(4)で触れた「ジョブチェンジ・転職に困らない能力」について解説する。
ITの進化で仕事そのものがなくなってしまうかもしれないといわれる時代において、「転ジョブチェンジ・職に困らない能力」をどう考えるか? 極めて難しい問いではある。
よくある「AIに取って代わられない職種や、能力」というのは少し違う。単に食うのに困らない能力ではなく、「自分の能力を生かし、いきいきと働ける仕事に移る」ために、困らない能力だ。
ちょっと考えてみよう。
(A)その業界や会社の中だけで通用するような能力ではない
まぁこれはある意味当たり前か。業界自体がなくなってしまうかもしれないのだから。「業界慣例」が強い場合や、「社内で正論以外のパワーが働く」環境に身をおいてしまった場合は、要注意だ。どうしても業界の論理、組織の論理に気を遣わざるを得ないため、普遍的な能力よりも、その環境に特化した能力が伸びてしまうからだ。
(B)スペシャリスト系の能力は確かに転職には困らない
弁護士、会計士、医師、キャピタリスト、建築家、翻訳家、SE、先生など、その道のスペシャリストになると、転職には有利だ。“手に職”系といってもいいかもしれない。僕も一級建築士なので、この強さはよく分かる。A社の設計士から、B社の設計士に転職するのは、正直簡単だ。でもこれは諸刃の剣でもある。スペシャリストになると、その業界やその仕事の中でしか転職できなくなるからだ。
会社を変えることが目的ではなく、「やりたい仕事、夢中になれる仕事」にたどり着くのが目的なのだから、選択肢が狭くなるのはちょっともったいないところでもある。学生のときに「やりたいと思った仕事」に確信があり、それが本当に「やりたい仕事」なら問題ない。しかし、僕のように違った場合、ぐっと選択肢が狭くなってしまう。
(C)最先端技術系の知識もスペシャリスト系と同じ
AI研究、ブロックチェーン技術、FinTech関連技術なども、これはこれで重宝されるはずだ。特定領域の専門家(物流の専門家、ECの専門家)というのもこれに該当するだろう。
でもAIブームが過ぎ去った後、どうなるか。新たな技術が注目され始めたときにどうなるか。また、自分の特性が「AIの仕事」では生かせなかった場合はどうするか。繰り返すが、最初から「これが好きなんだ、これがやりたいんだ」という確信があれば問題ないのだが。
(D)言語、会計、ITの知識などのビジネス基礎知識はどんな仕事でも共通して必要になる
これは当然、ある方が有利な能力だ。そういう意味では、これらが自然と身に付くような会社を選ぶとよいだろう。例えばITをテコに仕事をしている会社、グローバルで自然と言語が鍛えられる会社などだ。しかし、これらは真の“コア能力”ではなく、あくまで“プラス要素”でしかない。これらがあるから自由に仕事を選べるというものでもないはずだ。
(E)人に関する能力
これは完全に僕の主観なのだが、変化の大きな時代で最も“コア”になる能力の1つは、「人に関する能力」だと思う。
例えば、
- 人の力を最大限に引き出して物事を前に進める「ファシリテーション力」や「コーチング力」
- 人に何かを伝える「伝達力」
- スペシャリストたちとチームを組み、より高い成果を出す「チームリード力」
- 変革を起こすための「プロジェクトマネジメント力」
「人を動かす能力」といってもよい。
最先端の技術要素がどれだけ変化しても、それをつなぎ合わせ、人と人とがうまくコミュニケーションして何かを生み出す部分は変わらないと思う。必要な最先端技術を集めてきて、チームを組んで、自分は真ん中でファシリテーションしながらメンバーの力を引き出し、組み合わせる。これができると、どんなに技術が変化しても対応できる。プロジェクトマネジメントの技術もこれに該当する。
プロジェクトの種類はさまざまに変化するし、核となる技術や考え方は変化するけれど、プロジェクトそのものがない世の中はちょっと考えられない。
どこでも通用する能力とは「人の力を引き出し」束ねる能力
何が言いたいかというと、僕としては「(E)人に関する能力」を身に付けておけば、どこの会社でも重宝されると思っている。
加えて「(D)言語、会計、ITの知識」があれば完璧だ。
「(C)最先端技術系の知識」は、そもそも社会人になって数年で身に付くものではない。10年、20年たって(C)が確立されていれば十分だ。
「(B)スペシャリスト系の能力」は確かに強力だし、数年で身に付くものもあるだろう。一級建築士は社会人になってからでも最短2年で取得できる。だが前述の通り、選択の幅は狭くなる。
つまり、(E)と(D)が手に入りそうな会社を選ぶことをお勧めしたい。
「この会社なら、きっと後悔しないな」と思えた会社に入れ
まとめると、ファーストキャリアの会社として選ぶのは、「最初の会社に求める7つの条件」に合致し、「転職に困らない能力」の(E)や(D)の能力が身に付きそうな会社がよいだろう。
OB訪問などで先輩方などにいくつか質問をすることで、その会社がどんな様子かは、ある程度は見極めが付くはずだ。
ある程度の見極めが付いたら、正直「それ以上のよい環境」を探し続けてもキリがない。95点なのか96点なのかを見極めようとしても、正直、生産的ではない。
それよりも、95点の環境を100%“シャブリ尽くす”くらいのマインドの方が重要だ。これについては次回、第4回で解説する。第1回から今回にかけて会社という「環境」の選び方を説明してきたが、「その環境をどう生かすか」というあなた自身のマインドの話だ。
当たり前だが、会社に入るのはゴールではない。その先で何を経験するかが重要だ。「この会社なら、きっと後悔しないな」と思えるか。「この会社で、全力でいい経験するぞ」と思えるか。こういう腹積もりができるなら、その会社で正解だろう。
著者プロフィール:榊巻亮
コンサルティング会社、ケンブリッジのコンサルタント。一級建築士。ファシリテーションとITを武器に変革プロジェクトを支援しています。
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