社員をしらけさせるから「働き方改革」は失敗する 三社三様の「社員をその気にさせる方法」とは(1/3 ページ)
掛け声ばかりで誰も踊らない――。ITmedia エンタープライズ編集部が行ったパネルディスカッションで、「そんな働き方改革の失敗は『社員のしらけ』によるもの」という意見が出た。社員をしらけさせず、その気にさせるにはどうすればいいのか。
笛吹けど踊らず――。掛け声だけは勇ましいものの、なかなか業務現場からの理解が得られず、なし崩しになってしまうことも多いという“働き方改革の現状”を見ると、こんな言葉が思い浮かんでくる。
なぜ、働き方改革に失敗する企業が続出し、この言葉がバズワード化する事態になっているのか――。ITmediaエンタープライズ編集部では、この問題の本質を探るべく、主催イベント「“自走する社員”を生み出す会社がやっていること」の中で、「STOP! 名ばかり働き方改革」と題したパネルディスカッションを展開。改革の失敗から学びを得て、さまざまな試行錯誤の末に“働きやすい会社”へと変貌した企業のトップに話を聞いた。
型通りの“名ばかり働き方改革”とは一線を画す改革の具体策とは、どのようなものなのか――。本記事では、社員のモチベーションを上げ、社員が働きたくなる環境作りについて、手本となる具体策を講じる3社の事例から探る。
登壇したのは、内海産業代表取締役社長の長野慎氏、Phone Appli代表取締役社長の石原洋介氏、セールスフォース・ドットコム(以下、セールスフォース)インサイドセールス本部コマーシャル事業部 スタートアップ戦略部 事業部長の鈴木淳一氏。モデレーターは編集長の内野宏信が務めた。
働き方改革を叫ぶ前に考えるべきこと
ITmedia エンタープライズ編集長 内野宏信: 皆さんは企業における働き方改革の現状を、どのように見ていますか?
内海産業代表取締役社長 長野慎氏: テレビの報道などを見ているとユニークな取り組みが増えていて勉強になっています。ただ、全体の印象としては、残業規制など「インプット削減」に偏り過ぎているようにも感じています。生産性というのは、アウトプット(仕事の成果)をインプット(仕事に必要な資源)で割った価値の効率性を高めるもの――と理解しています。大事なのは成果の価値を高めること。このゴールを見失ってはいけないなと思います。
内野: なるほど。ただ単に「働く時間を削減する」といった“守り”の発想にとらわれ過ぎるあまり、その先につながっていない事例は多そうですね。Phone Appliの石原さんはいかがでしょうか?
Phone Appli代表取締役社長 石原洋介氏: 私も同感です。そもそも「何のために働き方改革をやるのだろう?」というゴールが不明確なまま走ってしまうケースは少なくないかもしれないですね。本来は手段であるはずの改革が目的化していたり。以前、シスコシステムズという会社に在籍していたのですが、海外には「働き方改革」という概念さえないそうで、日本独特の風潮になりつつあるようです。
内野: 海外の方が先行しているイメージがありますが、意外ですね。
石原: それだけ当たり前のこととして浸透しているということなのだと思います。米国のように国土が広いと拠点間の距離がかなり離れているので、オンライン会議は自然と普及する。場所や時間の制約のない柔軟な働き方がより早く浸透しやすいのでしょう。
内野: セールスフォースはソリューションベンダーとして、さまざまな改革事例をご存じかと思います。どう見ていますか?
セールスフォース スタートアップ戦略部 事業部長の鈴木淳一氏: 私たちが企業の方々から受けるご相談では、やはり現状を起点とした改善から着手しようとするあまり、根本からの改革に至っていないケースが多々ありますね。例えば、「社員の残業時間を減らすために、日報を出先からでも入力できるようにしたい」というご相談が来たりするのですが、「そもそも、毎日40分かけて全員が日報を書く必要はありますか?」という視点を持つべきだと思うのです。1日の労働時間が持つ価値を最大化するための発想に立ち返って、従来のやり方にとらわれずに無駄を省く仕組みが必要なのではないかと感じますし、実際にそう提案しています。
内野: 働き方改革とは、仕事の価値の最大化であることを再認識した方がいいということですね。では、そういった理解がありながらも挫折してしまう企業の問題点はどこにあると思いますか?
長野: 挫折するということは、「途中で止めてしまった」ということなのだと思います。途中で止めるから挫折になるのであって、諦めずに試行錯誤を続ければ、少しずつ良い方向に向かうのではないでしょうか。
内野: 試行錯誤を続けるにも、工夫が必要になりますよね?
長野: そうですね。「改革だからすぐにうまくいく」というわけではなく、「失敗したらやり方を変えればいい」という柔軟な姿勢が大切だと思います。「こういう会社に生まれ変わりたい」というビジョンをしっかりと持っていれば、修正は可能なはずです。「その改革を始めて何年? そんな革命的な変化はすぐには起こりませんよ」という腹のくくり方が必要かなと思います。
内野: 長野さんの会社で実際に行った改革も、そのような感じだったんですか?
長野: はい。私は銀行勤めを経て、妻の家業であった我が社に入社し、社長に就任したのが4年前。当時は人事制度すらない状況で、離職率は10%を超えていました。「異業種から来て何が分かる」と私に対する向かい風も結構厳しかったのですが(笑)、まずは人事制度を整え、優れた行動に対してオンライン上で「感謝バッヂ」を贈り合うことで社員間で褒め合う「褒め活」や、優れた仕事を表彰する「ミッションアワード」といった取り組みを進め、「互いに認め合う文化」を育む努力を続けてきました。
その結果、離職率は4%台まで下がり、社内の雰囲気もポジティブに変わってきたという経験があります。売り上げも、社長就任直後の2期は92億、93億円と低迷しましたが、その後100億円まで持ち直しました。うまくいっていない時期にも「挑戦中です」と言ってやり続ける覚悟さえあれば、挫折することにはならないと思っています。
内野: 説得力がありますね。石原さんはいかがですか?
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