IBMがNotesを売却 グループウェアはオワコンなのか?:Mostly Harmless(2/2 ページ)
米IBMが「Notes」「Domino」を含むエンタープライズ向けソフトを印HCL Technologiesに売却すると発表しました。Notesの歴史を探ってみると、クラウドの普及と現場ニーズの変化に一因がありそうですが、これからのグループウェアはどうなっていくのでしょうか?
やめられないNotesのスクリプト
初期にNotesを導入した企業の多くが今でも使い続けているのには、理由があります。Lotus Notesは、グループウェアであると同時に、アプリケーションの開発プラットフォームでもあったからです。
Notesには、オフィスの定型業務を自動化する「Lotus Script」というスクリプト言語が搭載されていました。このスクリプト言語は非常に強力で、少しプログラムができる人であれば、会議室の予約システムや、交通費の申請システムのようなものが簡単に作れてしまうのです。
Notesを導入した企業では、ユーザー部門がこれを使ってさまざまなプログラムを書き、それを便利に使っているため、Notesを「やめたくてもやめられない」状況に陥っているという話をよく聞きます。
NotesのスクリプトはPaaSの先祖
Notesのスクリプトがここまで受け入れられたのは、企業に「ユーザー部門で簡単に業務アプリを作りたい」というニーズが昔からあったことを示しています。
しかし、Notesは昔も今も高価で、中小企業ではなかなか導入できません。そのニーズを埋めたのは何かというと、Microsoftの「Excel」などのOfficeソフトのマクロでした。
ただ、経理部門の集計にExcelを使っているという話はよく聞きますが、Excelのマクロでは「ある程度のこと」はできても、Notesとは違ってユーザー管理や権限管理、アクセス権管理などがないため、少し高度なことはできません。
その後、1999年に「Salesforce」がサービスを開始し、ユーザーが増えていった結果、Salesforceの機能を使って業務アプリを作りたいという要望が出てきました。これを受けてSalesforceのAPIを公開したのがForce.comであり、これが世界初の「PaaS(Platform as a Service)」といわれています。
Salesforceは、ユーザーデータベースを持ち、アクセス管理も行えることから、Notesのスクリプトと似たようなことができたのです。この後、PaaSという分野が確立され、Force.com以外のPaaSが発展するにつれ、Notesの優位性も薄れていく結果となったのでしょう。
グループウェア自体がすぐになくなるかというと、一概には言えず、通信回線やユーザーニーズなどの面から見た地域的な要因が大きく影響しそうです。日本では、最近は「サイボウズ」などが人気ですし、インドなどの新興国地域では、今後まだまだグループウェアのニーズがありそうです。HCLも、それを考えて買収に踏み切ったのだろうと思われます。
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