“企業の死”につながる「意思決定の遅れ」、改善のカギはIT部門が握っている?:CIOへの道【フジテックCIO 友岡氏×クックパッド情シス部長 中野氏スペシャル対談】(2/3 ページ)
目の前の課題を叩き続けた結果、本質的ではないシステムを構築してしまって業務の複雑化が進んでしまった――。こうした課題と無縁のIT部門を作るにはどうしたらいいのか。
どうしたら“本質的な問題解決を考える組織”ができるのか
中野氏 プロセスを俯瞰する視点がないと、「情報をどう見るのか」という話をしても意味がないかもしれないですね。個別最適の話に終始してしまう可能性がある。「情報をどう見るか」を考える上での根っこは「組織のデザイン」につながっていると思います。重要なのは、「行動の原則を共有すること」なのではないかと思っています。
情報を使う人が気にしてない、でも、本当なら気にしなければならないところを「いや、これも気にする必要がありますよね?」と彼らに言えるか。それとも、彼らが気にしているものだけを言われた通りに拾って提示するか――。それによって、情シスのパフォーマンスや、情シスの在り方自体が変わってくるんじゃないかと思っています。
私は、「行動の原則を共有できる組織体をどう作るか」というところにものすごく気を使っているんです。メンバーの意識合わせをするために部内のミッションも定義していて、その一つは「課題解決を仕事にすること」です。言われたことを「言われたから」という理由でやったらだめだと。もう一つは、「本質的な変化をする」ということ。いったんは変化したものの、時間が経ったら元に戻ってしまうようなやり方はだめだよねと。
原則を置き、それに基づいて行動することで初めて、一貫した施策ができるのだと思います。システム投資の優先順位もそこから派生してくる。例えば、ぐちゃぐちゃなシステムを抱えている会社の情シス部門には、そもそもミッションや原則が存在していないことが多い。目の前の課題をひたすらたたき続けた結果、「さらなる業務の複雑化」を招いて行き詰まっているのではないかと思うのです。これは自分も経験したことだから、よく分かるんです。
目の前にある既に発生している問題、いわゆる「現場の人たちだけが『困った困った』と言っている問題」に対して、「じゃ、これをどうぞ。次はこれで」というような単発的な解決策を提示するのではなくて、「こういう課題が発生しているということは、本来、別のこの部分に問題があるのではないか」といった、“本質的な問題解決につながる話”をする必要があると思うんです。そういう考え方ができる組織を作るために、友岡さんはどんな取り組みをしていますか?
友岡氏 まず、一般的な日本企業でよくあるパターンから話すと……。業務プロセスをデザインする仕事と、業務プロセスを執行する仕事があり、その上で業務プロセスの最適化するための意思決定をどのように行うのかという議論がありますが、多くの日本の製造業では、業務を執行する事業部のような縦組織に全ての意思決定を任せるサイロ型です。なぜ、そうなるかというと、プロセスの意思決定と経営的な意思決定が1つにある方が組織運営は楽だからです。ただこのやり方だと無駄が多い。複数の組織で同じような業務を少し違った形でやっているのであれば合わせた方がいいに決まっています。
強烈なBPRを推進する欧米企業におけるアプローチはこれとは異なります。事業と業務プロセスをある意味分離して、例えば「Order to Cash」という横断した見方で、注文から入金するところまでのプロセスは全社標準でこういうやり方をしますよ、という横軸のプロセスガバナンスを通してしまう。当然各事業のトップを説き伏せてトップダウンで進める必要があるため、副社長クラスをトップに据えて横断的にプロセスを最適化するための責任と権限を与えて進めています。
プロセスオーナーという役割をしっかり会社で定めて、プロセスのオーナーシップを業務執行組織から独立して横串を刺しています。こういった横串のガバナンスは日本企業は得意ではありません。
強制力を持った横串のプロセスガバナンスをどのような領域で、どの範囲で、どのような軸で通すべきか――。これは難易度の高い問題であり、自分で進める上での力量が問われます。また、ガバナンスが自由な事業活動を制限するものであってもいけません。事業が1つであれば簡単なのですが、事業が複数あり、しかもお客さまの特性や商売の特性がまるっきり異なる場合であれば、無理に一本化しない方がいい場合もあります。
事業という縦軸と、プロセスという横軸を俯瞰しながら、こことここは、合わせた方がいいけれど、ここは個別にした方がいいよね、という会話ができる。もう少し俯瞰して眺めると、事業は全く異なるけれど、顧客や市場の特性が似ているので、同じプロセスで回せるよね、というような会話ができる。このように、事業部をまたいだ対話と、パターンに基づいたコンセンサス作りを横断的に行うのが理想的な姿ですが、実際にはそう簡単ではありません。それだけ日本企業の縦軸である事業部は、強いものがあります。
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