「攻めのIT、守りのIT」はオワコン? オイシックスのCMT、西井氏に聞く「ビジネスとITの間を行き来できる組織の作り方」:CIOへの道(3/5 ページ)
マーケティングのプロがIT部門にも関わるという、ちょっと変わった組織体系のオイシックス・ラ・大地。このような組織体制になった背景や効果、同社のマーケティングに対する考え方を、クックパッドの情シス部長が聞く。
マーケティングの本質は、実はとてもシンプル
中野: そういうコミュニケーションはとても重要ですよね。一方で、私が手掛けたクックパッドの「基幹システム刷新プロジェクト」では、時間とリソースの制約が極めて厳しかったため、正直なところ、そこまで丁寧なコミュニケーションを取る余裕がありませんでした。システム企画、アプリ担当、複数が同時進行するプロジェクトのマネジメント、採用担当と、全部一人でやっていましたからね。
そこで実際にやったコミュニケーションは、グローバル展開に耐え得るシステムのあるべき姿を明確に提示して、「これに向かって全員一丸で突き進もう!」と常に言い続ける、いわばトップダウンのコミュニケーションでした。その結果、5つの基幹システム刷新を同時並行で進めるというむちゃなプロジェクトも、何とかやりとげられたわけですが、本来は「現場の納得感を丁寧に取り付けるコミュニケーション」も必要なんだと思っています。
西井: 確かに、トップダウンの考え方も重要だと思います。実際、当社でも大きな施策は経営会議で決めて、トップダウンで降ろすことが多く、そこで起きるコミュニケーションの問題を解決するのも私の重要な仕事の1つです。
マーケティングで往々にして起こるのが、「現場の都合や組織の壁が邪魔をして、お客さまの声が経営まで正確に上がってこない」という問題です。トップダウンで現場にマーケティング施策を指示した際に、例えばデータの取り方を間違えたとしても、「取り直すための時間もお金もないから」という、現場の都合でもみ消されてしまうことが多々あります。それではお客さまの声がきちんと経営に伝わらないので、的確なマーケティング戦略を立てることもできません。
例えば「傷んだ野菜が届きました」というクレームをお客さまから受けた場合、もし現場に「クレームを減らせ」というKPIが課せられていたら、どうしてももみ消しがちになってしまいます。対応が面倒なのも分かりますが、そうした声はきちんと経営まで上がらないといけません。また、お客さまへの具体的な対応にしても、「単に、同じ野菜を再送することが、果たして本当に喜んでいただけることなのか」を考える必要がある。例えば、チャットのような仕組みを通じて傷んだ商品の写真をすぐ送信できて、素早く返金してもらえるような仕組みを提供した方がお客さまは喜ぶかもしれない。
これも前職で学んだことなのですが、結局は「お客さまが喜んでくれれば、会社の売り上げは自ずと伸びるもの」なのです。私のマーケティングは、突き詰めるとそれだけなんですよ。ここさえしっかり押さえて、お客さまに気持ち良く使っていただけるサービスを提供できれば、ちょっと不具合があってもお客さまが離れていくことなどないと思います。
中野: 組織の切れ目はデータの切れ目になりやすくて、システムに関わる人間はそこをつないでいかないといけない。ただ、データを集めてレポートが自動化されるだけではなく、それらがどんな意味と影響を持っているのか理解することも必要だと思います。特に間違ったKPI設定が及ぼす副作用には敏感である必要があると思います。KPIは組織を方向づけるためには有用ですが、一方で視野狭窄であったり部分最適を助長する副作用がある。
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