オイシックスが考える、サブスクリプション時代を生き抜くためのシステム設計とIT人材とは CMT、西井氏に聞く:CIOへの道(2/4 ページ)
マーケティングのプロがIT部門にも関わっているオイシックス・ラ・大地のCMTと、クックパッドの情シス部長が、ITとビジネスの在り方について語り合う本対談。後編は全体最適の視点に立ったIT戦略の重要性と、ビジネスを加速させるシステムの在り方に関するテーマで話が進んだ。
統合のポイントはバックエンドの共通化とフロントエンドの個別化?
中野: バックオフィス系もキツいのですが、ロジスティクスの部分が最も難しくて大変ですよね。サプライチェーンを持つと、とたんに難しくなる。少し前に、Webサービスから物理ビジネスに進出した企業の方と話す機会があったのですが、最もネックになるのは物流と生産だと言ってました。
在庫や原価の把握、リードタイムの推測など、これまで経験したことがない、さまざまな課題に直面する。「情報を動かすこと」と「モノを動かすこと」は、本当に大きく違うんだなと思います。私は以前、メーカーで働いていたことがあるので何となく分かるのですが、情報を扱うのと同じスタンスでモノを扱うと火傷しますね。
人事や財務などの統合も、それはそれでつらいのですが、やればなんとかなる。実際には社内のいろいろなところから不満が噴出するのですが、それらをうまく調整して組織の崩壊を防げれば何とかなります。もちろん細かいところでは特有の難しさも多々あるのですが、生産、物流は一度停まってしまうと製品が全く出荷できなくなって、一気に大事故に発展します。ビジネスに与えるインパクトの大きさが全然、違いますよね。
西井: そうですね、やはり基幹システムの部分が重要になってきますね。さらに言えば、「どこまで統合するのか」ということに加えて、「現在のシステム設計は、将来に渡っても有効か」という点にも気を配らなくてはなりません。このあたりも踏まえて試行錯誤しながら進めている、というのが正直なところです。
中野: 長期的な経営戦略の観点で見ても、やはり「ロジスティクスやバックオフィスの統合は不可欠」ということですね。
西井: その通りです。当社では現在、「未来の食卓と未来の畑をきちんと作っていこう」というミッションを掲げています。世間では私たちは「有機野菜を売っている会社」だと思われているかもしれませんが、実は「ものを売る会社」というよりは、むしろ「食卓を作る会社」「未来の畑を作る会社」を目指しているんです。
このミッションを実現するための手段として、「食のサブスクリプションのプラットフォーム」を提供していきたいと考えています。このプラットフォームをシステムとしてどう実現すればいいのか――というところに今、まさに取り組んでいるところです。
このプラットフォームの上に、「オイシックス」「大地を守る会」「らでぃっしゅぼーや」の各ブランドに対応したフロント系システムを載せることで、お客さまからは、この3つの中から生活スタイルに合ったブランドを自由に選んで商品を買っているように見えます。一方、裏のプラットフォーム部分は共通化されているので、どのブランドでお客さまが購入したとしても、そのデータを全社レベルでまとめて集計し、分析できるわけです。
こうしてデータ分析を行った結果を、商品開発やサービス開発に反映させることで、お客さまにより長く使っていただけるサービスの実現につなげていきたいと考えています。
このように基幹システムの統合だけでなく、情報系システムの統合も現在、重点的に取り組んでいる分野の1つです。大まかな方針としては、フロント部分はブランドごとに分けて、それぞれでカスタマイズできる幅を持たせつつ、バックエンドの物流やデータ分析などの基盤は共通化する――ということですね。
中野: なるほど。そうした仕組みを実現する上では、ロジスティクスやバックエンドの統合をしっかり行うことが先決になりますね。
西井: まずはそのあたりを統合した上で、さらにフロントのマーケティング部分やデータ分析、顧客ID管理の部分なども共通化できれば、と考えています。マーケティングに関しては、できればプロセスやノウハウもブランドの垣根を越えて共有したいですね。
特にオイシックスブランドには、これまで実施してきたマーケティング施策のノウハウが蓄積されていますし、新たな施策の実験場としても適していますから、まずはオイシックスブランドでさまざまなマーケティングを試して、そこで得られたノウハウをほかのブランドに横展開していければ、と考えています。そのために、オイシックスブランドのフロント系はアジャイルで迅速かつ柔軟に開発できるような仕組みにして、マーケティングの仮説を気軽にどんどん試せるような環境にする予定です。
一方で、それぞれのブランドで扱う商品の品ぞろえなど、ブランドごとの独自のマーケティング施策を打てる余地も残しておく必要があります。つまり、「共通化する部分」と「共通化しない部分」の切り分け方が重要になってくるわけです。現在、この線引きをどのあたりに設定すればいいのか、慎重に探っているところです。
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