“失敗の経験”から生まれた、変化することへの貪欲な姿勢――日立製作所に見るデジタルビジネスの進め方:Weekly Memo(2/2 ページ)
日立製作所がIoTを軸にしたデジタルビジネスを加速させ、全社的な取り組みへと発展させている。同社のデジタルビジネスの進め方は、多くのユーザー企業にも参考になるのではないだろうか。
最も学ぶべきは「変化することへの貪欲な姿勢」
図4は、ITセクターの2021中期経営計画の目標数値を示したものだ。ポイントは、3年間で1兆円規模の投資を行うとともに、2021年度に売り上げ収益2兆6000億円(他セクターのLumada事業を合算すれば3兆円)、営業利益率13.0%を目指すことにある。その売り上げ収益拡大の原動力は、他でもなくLumada事業の拡大に掛かっている。
図5は、あらためて「Lumadaとは何か」を示したものである。Lumadaの基本的な意味は前述した通りだが、塩塚氏は次のように見解を示した。
「Lumadaとはデータを活用し、お客さまやパートナーとの協創で新しい価値を創り出すエンジン。Lumada事業は本当に日立の柱になり得るのか、Lumadaで全事業をどのように伸ばしていくのか、といった声にお応えしたい」
そして図5にあるようにLumadaは、「IoTプラットフォーム」「システム構築・運用保守」「顧客協創サービス」「業種・業務ノウハウ」といった“4つの顔”を持つ「日立の全てのデジタルビジネスのプラットフォーム」(塩塚氏)であることを強調した。
では、具体的にLumada事業をどのように拡大していくのか。塩塚氏は「ユースケースやソリューションコアの蓄積と活用」「他セクターでのLumada活用の拡大」「Lumadaエコシステムの構築」「デジタル人財の拡充」「海外事業体制の強化」といった5つの取り組みを挙げた。
ユースケースやソリューションコアの蓄積と活用については、2018年度末時点でユースケース650件超、ソリューションコア70種をラインアップしており、今後も顧客との協創によってさらに拡充していく構えだ。
他セクターでのLumada活用の拡大については、各セクターの製品やシステムとLumadaを組み合わせて新たなソリューションを創生し、日立全体の事業を拡大を目指す。図4にあるように、この取り組みによって2021年度で4000億円規模の売り上げ収益を上げる計画だ。
Lumadaエコシステムの構築については、図6に示すように、顧客やパートナーとのエコシステムを構築し、社会イノベーション事業を拡大する構えだ。この取り組みも図4にあるように、2021年度で1兆6000億円規模を目標としている。
デジタル人財の拡充は、図7に示すように、Lumadaを支えるデジタル人財を2021年度に3万人規模に拡充するとともに、スペシャリスト育成とベーシックな教育拡充の両輪で強化していく。塩塚氏は、「デジタル人財というとデータサイエンティストが注目されがちだが、デザインシンカーやドメインエキスパート、セキュリティスペシャリストなども必須の存在だ。その育成に注力する必要がある」と訴えた。
そして、海外事業体制の強化については、北米、アジアを中心に強化し、グローバルでのLumada事業拡大を加速していく考えだ。この取り組みも図4にあるように、2021年度で1兆1000億円規模を目標としている。
以上が日立の説明だが、デジタルビジネスの進め方については、多くのユーザー企業にとっても参考になるところがありそうだ。例えば、「経営トップのリーダーシップ」「全社で取り組むための組織体制」「目指す姿を明確にする」「Lumadaのようなプラットフォームの採用」「エコシステムの構築」「デジタル人財の拡充」などが挙げられるだろう。
最後に筆者の印象を述べておくと、日立はこの4月から新たに取り組み始めた2021中期経営計画において、これまでの戦略や推進体制を結構な規模で刷新した。その姿勢には変化することへの強い貪欲さを感じる。それはおそらく10年前に製造業最悪の赤字を計上した“失敗の経験”に裏打ちされたものだ。その姿勢こそ最も学ぶべきところではないだろうか。
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