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インタビュー
EUとも米国とも違う「日本発」の情報活用スキーム:

「内定辞退率販売事件」から考えるパーソナルデータのビジネス活用 「情報銀行」が世界的に評価され始めた理由とは (1/2)

データがお金となる時代に、パーソナルデータをいかに守り生かすかを世界各国が模索している。これまで他国の例に倣うことの多かった日本は、米国における企業の独占やEUにおける完全な個人化で発生した課題を受けて「第3の道」に進み始めた。

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 2020年4月に個人情報保護法案が改正される。同法案はもともとプライバシーの保護を目的としてパーソナルデータの扱いを規制するものであったが、2015年から段階的に、情報の適切な活用を促す方針へのシフトを始めている。2020年の改正では他国の例を参考に「消去の権利(利用停止権)」や「漏えい報告義務」「仮名化」などが導入される見通しだ。

政府広報
政府広報には「個人情報は保護と活用のバランスが大切」と明記されているが、現状は……(出典:政府広報オンライン

 しかし現在、われわれが普段の生活の中で、自分のデータが自分自身にとって有利に活用されていると感じることは少ない。むしろ、しつこいターゲティング広告や迷惑メール、情報漏えいのニュースなどで不快な思いをすることのほうが多いかもしれない。一方で金融機関や行政サービスの窓口では相変わらず書類や印鑑、対面での本人確認を求められるし、初めて行った病院では問診票を手書きしている。

 現在日本人のパーソナルデータはEUのようにGDPR(一般データ保護規則)で守られてもいなければ、米国のように1つのアカウントから多種多様なサービスへシームレスに連携できるわけでもない。そのような状況に対し、国はEUとも米国とも違う仕組みを模索している。総務省と経済産業省が主体となって進めるパーソナルデータの信託機能「情報銀行」だ。

 情報銀行プロジェクトに深く関わり、同プロジェクトの解説書籍『情報銀行のすべて』を執筆した花谷昌弘氏(NTTデータ 金融事業推進部 デジタル戦略推進部 部長)は、個人情報保護法案の改正によって推進されるパーソナルデータの活用を「人口減少時代に日本が生き残る道」と考えている。

花谷昌弘氏
NTTデータ 花谷昌弘氏

 「今後、縮小均衡の世の中において、日本が効率よく財政を回していくためには、データに頼らざるを得ない。公共事業は公益のために税金を使って民間にはできないサービスを構築するものだが、中にはうまく活用されないような事例もあった。しかし現在の日本に、そのような無駄遣いをする余裕はない。これからはデータを活用して事業計画の確証を上げ、公共サービスの始まりや終わりを判断していかなければならない」(花谷氏)。そのために、官公庁や民間企業、個人がバラバラに所有しているパーソナルデータを流通させ、活用できる仕組みを整える必要があるという。

 しかしパーソナルデータの流通については、効果を疑問視する声やリスクを指摘する意見もある。消費者団体や個人からは「なぜわざわざ個人情報を流通させるのか」という声が上がる。「ようやく個人情報保護法ができたのに、それを今度はひっくり返すのか」という法曹関係者もいる。そのような現状に対し、花谷氏は「それぞれがそれぞれの立場でポジショントークをしているうちに、われわれのパーソナルデータはどんどんGoogleに吸い上げられている」と警鐘を鳴らす。

他国で進むデータ活用の試み それぞれの課題は?

 情報のビジネス活用で先行するのは、米国のGAFA(Google、Apple、Facebook、Amazon)や中国のBAT(Baidu、Aribaba、Tencent)だ。例えば、われわれはGoogleの提供する便利なサービスを無料で使う引き換えに、自分の活動記録や調べた情報の履歴をGoogleに渡している。Googleはそれらのデータから新たなサービスを作り、個人やビジネスパートナーに提供して利益を得る。

BlueButton
自分の医療情報を機械可読性のある状態でダウンロードできる「Blue Button」

 米国政府も「Smart Disclosure」政策を策定し、エネルギー分野では「Green Button」、医療分野では「Blue Button」によるパーソナルデータの流通を促進している。中国も米国と似たアプローチでデータ活用企業の産業育成に積極的だ。

 他方EUはデータ活用による産業育成を前提としながらも、パーソナルデータ保護の視点が強いルール作りを進めている。例えばパーソナルデータの活用に関してはGDPRによって厳密な管理を求め、違反した企業には厳しい罰則を科す。同じEU加盟国でもエストニアや英国は保護と両立する積極的な情報活用を推進しており、英国の「mi.data」プロジェクトでは、事業者が保有していた情報を個人へ還元する取り組みから関連市場の活性化が進んでいる。


英国「mi.data」プロジェクトの仕組み(出典:経済産業庁2018年「データの利活用等に関する制度・ルールについて」

 パーソナルデータの活用主体を個人が取り戻すよう政府が主導するのも「データの民主化」といえる。しかし「民主化」に伴い、それぞれの国で違った課題が顕在化している。

 米国のアプローチは、積極的な情報活用によるイノベーションが推進される一方で、1企業による情報の独占やサービスロックインなどの問題が起きやすくなる。花谷氏は一例として、「Uber」の口コミを挙げた。

  「Uberはスコアリングによる人気商売だ。嫌がらせ目的でユーザーから不当に低評価を付けられると依頼が来なくなり、オーナーが失業してしまうこともある。企業が情報を抱え込んで、個人がそれを訂正する権利を持たないのはおかしいという考えが盛り上がりつつある」(花谷氏)

 一方でEUでも、情報の権利を個人に返し過ぎたことが原因で問題が出ているという。「不信感から『自分の情報は流通させない』と決めて、情報をため込んだままにしてしまう人が出ている。特に高齢の方がパーソナルデータを『タンス貯金』にしてしまうと、データに基づいた医療保険や社会保障の提供ができなくなってしまう」(花谷氏)。せっかくの資産であるデータを個人が抱え、その価値を生かせなくなってしまっているのだ。

 米国でもEUでも「信じてもいい情報の提供元」の不在が問題になっている。その課題は、日本においても同様だ。

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