セキュリティインシデントの報告書で信頼を高める――コインチェックの対応に学べ:半径300メートルのIT(2/2 ページ)
サイバー攻撃の標的にされて何らかの被害を受けた時、企業組織は社会に向けてその経緯や対処を伝える「報告書」を公開します。コインチェックが公開した報告書からは、社会や攻撃者に対して明確なメッセージがこめられていました。
この対応の「スゴさ」はどこにあるか
今回の対応には、金融業界のみならず全ての企業組織が見習うべきポイントがたくさんあります。
まず驚くのが、コインチェックが「小さな違和感」にしっかり気付けている点です。報告書には「監視業務にてレスポンスの遅延を検知し関連システムの調査を開始」とだけ書いてありますが、この1行を読んだだけでひっくり返るセキュリティ担当者もいるでしょう。そして、最初の検知から7時間後には、ドメイン登録情報の変更に気が付いています。
報告からは、コインチェックが2018年のインシデントの後に入念な対策を実施し、それがしっかり効いているという印象を受けます。原因が分かれば、その後の対応はある程度見えてくるでしょう。個人的には、ここに至るまでのコインチェックの動きは称賛に値すると思っています。
「わが社は金融系ではないから無関係」と思ってはいけません。こういった攻撃は数年すればノウハウが確立して自動化され、全ての企業をターゲットにして広がるもの。攻撃の初期段階で異常を検知する仕組み作りは、どの業界にとっても重要です。
コインチェックに学ぶもの
コインチェックの報告書からは「平時の備え」の大切さが分かります。まず普段のレスポンスをモニタリングしていなければ、遅延の発見もできなかったでしょう。
例えば小規模な組織であれば、従業員が「あれ?」と思ったときに隣の席のシステム担当者に雑談レベルで報告が届くかもしれません。しかし組織が大きくなると、そのようなシームレスな連携も難しくなります。どんな組織であっても、現場の小さな違和感をすぐに適切な場所へ報告できるような仕組みが必要かもしれません。
さらに重要なのは、自社が管理しているサービスの変更管理を徹底し、不正な設定変更がすぐ把握できる点にあるでしょう。Webコンテンツ向けの改ざん検知ソリューションだけではなく、ルーターやファイアウォールなどのネットワーク機器やクラウドサービスの設定、ドメイン設定などの管理についても考えておく必要があるでしょう。
ドメイン管理については、過去にも乗っ取りの話題がありました。アニメ「ラブライブ!」の公式サイトが「ドメイン移管」の悪用によって乗っ取られた事件です。閲覧者が正規ドメインを入力してWebサイトにアクセスすると、正規のプロセスを踏んで第三者のWebサイトが表示される状態になっていました。
ラブライブ!公式サイト乗っ取りに使われた「ドメイン移管」の仕組みとは “10連休”に危険潜む? - ITmedia NEWS
ラブライブ!の公式サイト乗っ取りには、目で見て分かる変化がありました。しかしコインチェックのようにメールだけを狙ったり、そっくりな偽サイトを作られたりしては、利用者にはすぐに攻撃に気付けません。そのタイムラグを狙う攻撃者もいます。ドメインを狙った攻撃にはさまざまなパターンが考えられます。皆さんの組織では、それぞれの攻撃に備えた「平時の管理」ができているでしょうか?
セキュリティインシデント報告書で信頼を高める
コインチェックは今回の短いレポートで、事故対応の報告と「われわれはこのような攻撃をすぐに発見して対処できる」というメッセージを同業他社や攻撃者に向けて発信しています。
それは、利用者に取って安全を提供する姿勢となり、“信頼”を作り出すのではないかと考えています。セキュリティ投資は利益を生まないと考えている経営者も、今回の対応には何か違うものを感じるのではないでしょうか。その点でも、この報告書は大きな力があると、私は考えています。
余談ですが、報告書の中で筆者がもっとも気になったのは、「経緯」の最終行にあった「当社のドメイン管理に対するドメイン登録サービス事業者の変更を完了」という対応です。
ああ、やっぱり「お名前.com」から変えられてしまったか、という印象を持つとともに、今回の事象を経てコインチェックが移管したサービスがどこなのか、ほんの少し気になりますね。
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