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ヤマトHD「特命DX請負人」は300人のIT・デジタル専門チームで何を変えるのか【特集】物流Techのいま(3)(1/2 ページ)

ヤマト運輸を始め、日本の物流を支える企業を束ねるヤマトHDが、第3の変革期を迎える。次の100年に向けた経営構造改革プランの中で、DX請負人を招いた物流企業が目指すのはどんな世界か。キーパーソンに話を聞いた。

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ヤマトHD 執行役員 データ戦略担当 中林紀彦氏

 ヤマトホールディングス(以降、ヤマトHD)は2020年1月、グループの経営構造改革プラン「YAMATO NEXT 100」を発表した。その中で、今後4年でデジタル分野に約1000億円を投資し、デジタルプラットフォームの構築やDXの実現に向けた取り組みを進めていく。YAMATO NEXT 100の中で同社がミッションとして掲げるのが、社会インフラの一員として顧客と社会に向き合い「新たな物流のエコシステム」を創出すること、それを通して次の時代にも、豊かな社会の実現に持続的な貢献を果たす企業であり続けることだ。

 この計画の中で、2019年にヤマトホールディングスに参画した執行役員 データ戦略担当の中林紀彦氏が果たす役割は大きい。中林氏はデータサイエンティスト協会の理事としての顔を持ち、内閣府「人間中心のAI社会原則」や経済産業省「AI・データ活用ガイドライン」の策定にも加わる。自身がデータサイエンスを専門とすることもあり、ITベンダーに所属する傍ら、大学でデータサイエンティストを志望する学生の指導や国内外のスタートアップの支援にも積極的だ。過去には国内大手保険会社に籍を置きデジタル変革やAIを活用した新たな事業モデル開発の基盤作りをリードしたこともある。

特集:物流Tech

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物流業界はダイナミックなデジタル変革が進む。オペレーション効率最大化に向け、組織を超えた情報や技術の連携、設備のサービス化、IT基盤を使ったプラットフォーム開発など、企業間の競争も激しい。既に極限まで効率化されつつある業界だが、この数年はグローバルプレーヤーに加え、ITスタートアップやプラットフォーマーを目指すプレーヤーの参入が相次ぐ。ITを起点に大きな変革の中にある物流業界のトレンドを追う。


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 この1年を見てもヤマトHDの中でデジタル変革に向けた活動が進む状況が見て取れる。2020年4月には「YAMATO NEXT 100」の計画に基づき、オープンイノベーション推進のために50億円のCVCファンド(Kuroneko Innovation Fund)を設立、ビッグデータ分析基盤を提供する米国Palantirにも出資した。Palantirはペイパル創業者が設立したデータ分析専門の企業で、その技術は米国防総省やFBI、CIAといった機密情報を扱う組織でも採用されてきた。非構造化データと構造化データの統合分析を得意としており、全体の「文脈」から用語の意味を動的に変化させる技術である「ダイナミックオントロジー」を活用した関係分析やSaaS型のマネジメントコンソール、バックエンドのデータをフロントエンドのビジネスロジックの間をつなぐ機能などを持つ。

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PalantirのWebサイト。同社はヤマトHDの他、富士通やSOMPOホールディングスも出資する

 2020年6月にはEC事業者向け新配送商品「EAZY」をリリースし、2020年8月には「デジタル化された受取・返品システム」を提供するDoddleとの提携を発表した。Doddleは英国の他、オーストラリア、米国の郵便公社と提携しており、リテール事業者のEコマースシステムにも組み込まれている。2020年11月からは「EAZY」導入企業と特定のEC事業者を対象にDoddleの「Click & Collectシステム」を導入し、サービス提供をスタートする予定だ。

 コロナ禍を経て、非接触で荷物を届ける「置き配」と呼ばれる配送方式が注目を集めるが、各EC事業者が「置き配」モデルやシステムをゼロから自前で構築するのは負担が大きい。さらに返品対応もシステム化できれば顧客の利便性向上につながる。EAZYやDoddleが持つ機能を提供することで、事業者の規模に関わらず柔軟な受け取り方法を選択することが可能になる。EAZYでは、一般的な「置き配」とは異なり、建物内の受付や管理人預けなど多様な置き場所を指定できる他、配達直前まで場所の変更も受け付けられるのも同サービスの特徴だ。

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Doddleとの業務提携でECサービスの品質向上を支援する(出典:ヤマトHD)

 さらにヤマトHDは既存ビジネスを拡張するデジタル変革に加え、今後はこれからの社会変革につながるMaaS(Mobility as a Service)領域での知見も集める計画だ。既に車両情報の収集にも取り組んでおり、「さまざまなことを検討している最中」だという。

 1年のうちに次々と手を打ったように見えるが、今見えている成果はあくまでも途上で「クイックとロングタームのバランスをとりながら進めた結果」(中林氏)であり、長期的には、ビッグデータ基盤の整備やエコシステム確立を目指すプロジェクトを進めている。

膨大なアセット、リソースをどうDXに結び付けるか

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