江崎氏、国領氏が語る「ウィズコロナ時代のデジタル社会の展望」とその設計思想
コロナ禍を機に表面化したデジタル社会の課題は何か、これからの私たちがウィズコロナ時代に心すべきことは何かを、WIDEプロジェクトの代表を務める東京大学 江崎 浩氏、慶応大学理事国領二郎氏が語った。カギは「レジリエントな社会」の仕組み作りにあるようだ。
コロナ禍を機にデジタル社会に向けた課題が明らかになた。変化に対応する組織に求められる要素は何か。WIDEプロジェクト代表を務める東京大学 江崎 浩氏、慶應義塾 常任理事 国領二郎氏が学術機関のコロナ禍対応を通じて気付いたという、これからの社会に必要な「設計思想」について語った。
*本稿はNTTデータ主催の年次イベント「NTT DATA Innovation Conference 2021」の公演から本稿掲載に向けて内容を再構成した。
ウィズコロナ時代はコミュニケーションの文脈形成が急務――国領二郎氏
コロナ禍ではほぼ全ての組織が厳しい事業運営を迫られた。その一方で得られた知見や明らかになった課題も多いことだろう。学識経験と現場経験豊富な両者は約1年に及ぶコロナ禍での学びについて次のように語った。
慶應義塾大学でCIOを務める国領二郎氏は「無我夢中で対応した1年だったが、オンライン授業などのようにいままで困難だと思われていたことが、意外にも簡単に実現できることに気付いた」と振り返る。しかしその一方で「オンラインで友人を作れる学生とそうでない学生がいた。新入生は大学の一員としての意識を持ちにくく、不安感を抱くこともある。これはオンラインにおいては組織の『文脈形成』がなかなか進まないということだ。これを放置していると、世の中の分断が進むのではないかと危惧している」と指摘した。
デジタルネイティブ世代の学生でもオンラインでの人間関係構築が得意な人と苦手な人がいる。授業や業務そのものは両者ともにオンラインでも問題ないとしても、インフォーマルな人間のネットワークづくりの巧拙には差が出てくる。「オンライン化も全く平気で生き生きと過ごすグループと、断絶してしまったグループの両極端がある」と言う。
また國領氏は「『人間は自然をコントロールする力を持つ』という考えが過信であることが、改めて認識された。過去のわれわれの世界観――人間が王様であるかのように考えることを改めるべきだ。人間も自然の中の1プレイヤーとして生きるという根本的な死生観、世界観も、ミクロとマクロの両面で考え直す必要がある」と語った。
これから変化が本格化する――江崎 浩氏
東京大学の教授でWIDEプロジェクト代表でもある江崎 浩氏は、「科学技術や人間の力への過信があったことに気付かれた。物事には良い面と悪い面が必ずある。良い面を尊重しながら悪い面を上手にコントロールすべきだ。その際は倫理観が重要になる」だと語り、いままで認識はされていたものの顕在化していなかった問題が表面に出てきたことを指摘した。
「環境の変化に伴って古くからの課題が改めて注目され、スケールが大きくなっていく。その過程で課題のフェーズが変わる。技術開発に例えるなら、実証実験段階と実装段階とで様相が全く異なることを思い描くと分かりやすいだろう。これから(本格的に)変化が起こり出す」と今後を予測する。
「幼い子どもが水に投げ込まれたときに本能で水泳を覚えるように、強制的に実施せざるを得ない状況があれば従来の壁を乗り越えられる
が分かってきた。このような変化は政治にも現れている」として、ソーシャルメディアを活用していろいろな意見を取り込もうとする動きがあることを例に、変化の兆しを示した。古くからの課題について本質に向き合い、最適解を探す取り組みの一つといえるだろう。従来であれば「調整済み」として予定調和にされがちだったパブリックヒアリングなどの施策でも、生の声を生かす動きが生まれているという。
「元に戻そうとするモメンタムも強いが、確かに変化が起きている」(江崎氏)
レジリエントな社会創出のための「7つの提言」と具体的行動
では、私たちはウィズコロナ時代の変化にどう対応していけばよいのだろうか。この問いへの答えは「社会の在り方」と「設計思想」にあるようだ。
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