化粧品メーカーに移籍したITプロ 1年で何を成し遂げたか、コーセーの事例に学ぶ(2/2 ページ)
コーセー情報統括部に参画したITのプロはDXに向け、組織をどう変えたか。急遽発生したコロナ禍対応と合わせ、どう活動し、何を変えたか。1年の活動成果を聞いた。
「組織と人」「仕組み」「スピード/繰り返し」を軸に課題を整理してみたら
コロナ禍への対応のみならず、化粧品メーカーとしてのDXにおいても情報統括部は大きな役割を果たそうとしている。
化粧品メーカーにとってのDXとは、「データの蓄積によって接客/カウンセリングを数値化(=見える化)するデジタイズと、データの分析/解析から得たインサイトによってプロセスを改善するデジタライズの組み合わせにより、ニュービジネスの創造やニューノーマルの確立、美容部員の新たな働き方を創る全社的な取り組み」だと進藤氏は話す。
ただし、コロナ禍への対応と同様、DXもこれまで誰も体験したことがなく。正解が分からない取り組みだ。推進に当たっては、これまでのように事前検証を済ませて進む重厚長大なアプローチよりも、スピード重視で何度もクイックに試行錯誤を繰り返せる仕組みやマインドが求められる。だが、多くの組織にはスピード重視で繰り返しチャレンジし続ける組織や人材が欠けており、失敗してもやり直せる仕組みやプロジェクトも存在しない。
そこで、情報統括部では「組織と人」「仕組み」「スピード/繰り返し」というそれぞれの課題について、次のような方針を定めてDXを推進することを決めた。
まず「組織と人」に関するプロジェクトにはコーセーの情報統括部員とITベンダーの要員による協働(Co-Working)で当たる。これを通じて、情報統括部員はITベンダー要員からスキルトランスファーを受け、ITベンダー要員はコーセーの従業員と同じ立場でタスクに取り組みながらコーセーのビジネスを学べる。「両者が別々の場所で仕事をしていたのでは得がたいものが得られる、まさにWin-Winの関係を築けるのがコーセーとITベンダーによるCo-Workingモデルの特徴です」と進藤氏は話す。
なお、原則としてCo-Workingは初回のプロジェクトのみで実施し、次回以降は情報統括部員だけで作業を進める。
また、「仕組み」に関してはオンプレミスからパブリッククラウド(AWS)にシフトしてマネージドサービスやサーバレスの仕組みを全面的に採用することで迅速さを追求する。
そして、「スピード/繰り返し」については、形式的なプロジェクト管理を撤廃し、システムの標準化と共通化、業務プロセスの共通化を進めた。
ITベンダーとのCo-WorkingにAWSのエンジニアリングサービスを活用
「仕組み」となるシステムをAWSにシフトしたこともあり、コーセーはITベンダーとのCo-WorkingでもAWSのエンジニアリングサービスを活用している。具体的には「ソリューションアーキテクト」「プロフェッショナルサービス」「エンタープライズサポート」の3サービスを利用中(一部は現在検討中)だという。
このAWSとのCo-Workingで実施したDXプロジェクトの1つが「店頭混雑状況可視化システム」の構築だ。
COVID-19の感染拡大に伴い、顧客やコーセーの営業現場から「化粧品売り場の混雑状況が気になる」という声が寄せられるようになった。これを受け、同社は「店舗に行く前に売り場の混雑状況が分かる仕組み」として店頭混雑状況可視化システムの構築を決定。プロジェクトは2020年度入社の3人の新人部員とAWSのソリューションアーキテクト1人の4人で進め、わずか1.5カ月の開発期間で構築した。
コーセーが顧客の声に迅速に応えるDX組織を作るために最初に手掛たのは、IT部門の声に耳を傾けることだった。その声(課題)に徹底して対応したことが、短期間での業務改革、コロナ禍への適応、そしてDX推進体制の構築として結実したといえる。新藤氏の約1年間のチャレンジは組織を大きく変える成果に結びついたといえる。
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