日本マイクロソフト、遠隔医療やAIホスピタルの実用化に向け、ヘルスケアプラットフォームを提供
日本マイクロソフトは、ヘルスケア業界のDXを支援する最新の取り組みを発表した。機能強化した「Microsoft Cloud for Healthcare」を活用し、医療・介護でのデータ活用を支えるヘルスケアプラットフォームの提供を目指す。
日本マイクロソフトは2021年10月20日、ヘルスケア分野のデジタルトランスフォーメーション(DX)支援する最新の取り組みについて発表した。
ヘルスケア分野の変革を支える“ヘルスケアクラウド”とは
同社は「社会と人をつなぐ新しいエコシステムの実現」に向け、ヘルスケア分野のDX支援に注力しており、個人の生活習慣や健康データを含む「PHR(個人健康記録)」と「EHR(電子健康記録)」を統合した医療・介護全体でデータを活用するための「ヘルスケアプラットフォーム」の提供を目指している。
この方針のもと、同社が2020年から提供しているのがヘルスケア向けクラウドプラットフォーム「Microsoft Cloud for Healthcare」だ。オンラインを前提とする医療ニーズの多様化に対応し、患者へのより良い医療や医療従事者の生産性向上を支えるプラットフォームとして、パートナー企業とともに展開している。
Microsoft Cloud for Healthcareは、ヘルスケア領域のクラウド化を推進するため、患者を起点としたデータ連結による「患者エンゲージメントの向上」、多職種との連携やチーム医療をはじめとする「医療従事者間のコラボレーションの強化」、分散管理された医療健康データの統合による暗黙知の見える化・分析を実現する「医療データのインサイト向上」、セキュリティとプライバシーの順守による高信頼な「医療情報の保護」にフォーカスし、各種製品を提供している。
パートナー企業との連携で柔軟な機能強化を実現
オンライン診療など、多様化する医療ニーズに応えるため、Microsoft Cloud for Healthcareは、国内外のパートナー企業との連携も積極的に進めている。
例えば、米Epicのオンライン診療システムとの連携では、「Microsoft Teams」を用いたオンライン診療の予約や管理、電子カルテデータとの統合を実現。国内では、インテグリティ・ヘルスケアのオンライン診療システム「YaDoc Quick」との連携で、Teamsを利用したビデオ通話によるシームレスなオンライン診療を実現している。
また、富士通の電子カルテシステム「HOPE LifeMark-HX」は、ニューノーマル時代の診療スタイルや病院運営に対応するオプションとして、Teamsを活用したWebミーティングやリモートワーキング機能を実現。これにより、院内では診療科や職種を横断した非対面でのカンファレンスや隔離エリアとのコミュニケーションを可能にする他、院外ではグループ病院間や勤務待機中の医療従事者との連携業務を可能にするなど、医療従事者のコラボレーションを強化できる。
その他、2021年4月にMicrosoftが買収を発表した米Nuance CommunicationsのAI(人工知能)技術を活用し、オンライン診療時などの患者との会話音声データの構造化や、電子カルテデータとの連携に取り組むなど、Microsoft Cloud for Healthcareの機能強化を図っている。
日本初のオンライン遠隔医療やAIホスピタルの実用化を支援
今回の発表では、国内の医療機関におけるMicrosoft Cloud for Healthcareの活用事例も紹介された。
国立国際医療研究センター(NCGM)では、2015年から「Microsoft 365」を導入し、「Microsoft SharePoint」を活用した情報共有や「Microsoft OneDrive」でのファイル共有、Teamsによるタスク管理や電子会議、「Microsoft Outlook」でのコミュニケーションなどを実現。これらは職員自身が構築し、コロナ禍におけるデジタル化を推進している。今後、医療研究連携推進本部(JH)の6つのナショナルセンターに取り組みを拡張する予定だという。
2020年9月には、千葉大学医学部付属病院とTISが開発したクラウド型地域医療連携サービス「ヘルスケアパスポート」が運用を開始している。ヘルスケアパスポートは、サービスに参加する医療機関や医療従事者と患者、その家族との間で医療・健康情報をセキュアに共有し、スムーズな医療提供を目指すサービス。この基盤には「Microsoft Azure」が利用されている。
2021年3月には、長崎大学、五島中央病院、長崎市、五島市と連携し、複合現実(Mixed Reality)とAIを活用した日本初の「オンライン遠隔医療システム」の実証実験を開始。最初のプロジェクトとして、長崎大学関節リウマチ遠隔医療システム「NURAS」を開発し、離島やへき地といった専門医過疎地域への高水準で均てん化された医療の提供を目指している。
NURASでは、AIセンサー搭載の開発者キット「Azure Kinect DK」を深度センサーとして患者の前に置き、MRデバイス「Microsoft HoloLens 2」を専門医が装着、コラボレーションツールのTeamsを使ってビデオ会議を行うことで、平面映像だけでは評価が困難な病変部位を立体的(3D)かつリアルタイムに観察、評価できるようにしている。
また、日本マイクロソフトは2021年6月から「内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)」の「AIホスピタルによる高度診断・治療システム」の社会実装に向けた「医療AIプラットフォーム技術研究組合(HAIP)」に参画。医療AIサービスの普及・発展に資する業界共通の基盤技術として、Azureの各種技術提供を中心に、ヘルスケア分野におけるSociety 5.0の実現に向けてパートナー企業とともに取り組むとしている。
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