検索
特集

花王のリモート決算体制は「DCPA」で推進 国内グループ各社のシェアードサービスセンター化を目指す(3/3 ページ)

コロナ禍でオフィスに出社しての業務が難しくなった花王の会計財務部門は、決算業務をテレワークに対応させるプロジェクトを始動させた。決算リモート化に向け、同社はどのようなアプローチを採ったのだろうか?

Share
Tweet
LINE
Hatena
前のページへ |       

タスク管理と勘定照合の導入で組織と財務の仕事はこう変わった

花王 会計財務部門 管理部 部長(制度会計担当)の今川康則氏
花王 会計財務部門 管理部 部長(制度会計担当)の今川康則氏

 会計財務部門 管理部部長(制度会計担当)の今川康則氏は、決算業務のリモート化によって花王の経理業務がどう効率化されたのかを説明した。

 コロナ禍を期にテレワークに移行した当初、同社の決算業務は「可視化/統制強化」「標準化/自動化」の面で下図のような課題を抱えていた。

決算業務の課題(出典:今川氏の講演資料)
決算業務の課題(出典:今川氏の講演資料)

 在宅が主流になったことで、決算業務の進め方は大きく変化した。可視化/統制強化については、特に上図で黄色で示した項目がリモート環境下で課題となっており、解決が困難な状況だったという。一方、標準化/自動化については、従来から認識していたことがあらためて課題として顕在化した。

 花王は、これらの課題をBlackLineの導入によって解決できると考え、まずタスク管理と勘定照合モジュールの導入を進めた。

 前述のように、本番業務でのタスク管理の利用は昨年12月の決算時より開始した。当初は30人のユーザーで490件のタスクを管理し、決算タスクの一元化、決算業務プロセスの可視化を実現した他、期限が過ぎても未完了のタスクをアラートで通知する機能などの活用を進めた。最終的にはユーザー数を80まで増やし、今年6月に国内のほぼ全社に展開したことで、管理対象のタスク数は1800件にまで増加した。タスク管理の画面では、各タスクの進捗状況やタスクの割り当てステータスなどを確認できる。

決算業務の課題(出典:今川氏の講演資料)
決算業務の課題(出典:今川氏の講演資料)

 勘定照合に関して、従来はExcelやPDF、紙などで照合していたが、紙の場合は人によって置いている場所が異なり、テレワーク開始後は作業の完了をタイムリーに確認できないといった問題があった。

 これがリモート決算への移行によって一元管理が実現され、かつ勘定照合とタスク管理をひも付けることで、勘定照合が終わると該当タスクが自動的に完了するようになり、アナログだったプロセスは大幅に改善された。

勘定照合能率化
勘定照合の効率化(出典:今川氏の講演資料)

 タスク管理と勘定照合を導入した段階で、実際にどのような効果が得られたのかをまとめたのが次の表だ(表右端に◎〜×で効果の度合いを示した)。最も大きな効果は進捗(しんちょく)や負荷状況をリアルタイムに把握できるようになったことであり、次いで勘定科目とタスク管理の連動、ペーパーレス化が挙がる。ただし、現在は導入から間もない段階であり、「導入してから、いかに活用していくかが大事です。今後はDCAPの取り組みにより、現在は×の項目を△に、△の項目を○にしていきたい」と今川氏は話す。

導入の効果(出典:今川氏の講演資料)
導入の効果(出典:今川氏の講演資料)

マッチングと自動仕訳の導入で決算業務時間の30%削減を目指す

 このようにタスク管理と勘定照合の導入によって多くの成果を得ると、花王はさらなる効率化を目指してマッチングと自動仕訳のモジュールを導入し、今年7月から現場での利用を開始した。まず仮勘定整理や銀行勘定の入金消込でマッチングを使い、入金手数料の自動仕訳など3つの業務で自動仕訳を利用して、これまで人が適宜判断して行っていた業務の自動化を図る。

マッチング、仕分け入力の初期導入シナリオ(出典:今川氏の講演資料)
マッチング、仕分け入力の初期導入シナリオ(出典:今川氏の講演資料)

 今川氏は、同社が進めているマッチングと勘定照合を組み合わせた活用例を2つ紹介した。1つは仮勘定整理での活用だ。


仮勘定整理(出典:今川氏の講演資料)

 上図下部に示すように、SAP ERPのデータをBlackLineに取り込み、勘定仕訳の借方、貸方の明細をソースにしてマッチングにかける。このとき、パスルールとして「摘要と摘要が合致する」「摘要の○文字目まで合致する」「金額と金額が合致する」などを適用し、自動一致(自動マッチング)または提案一致(提案マッチング)で消し込みを行う。その上で、残った不一致については勘定照合の明細項目の残高で確認するといった流れになる。「まさに川上から川下に流れていくように一連の作業がスムーズに進みます」と今川氏は話す。

 もう一つの例は入金消込だ。この場合は、SAPに取り込んだ銀行の入金データと、請求書、債権明細などのデータをBlackLineに取り込んでマッチングを行う。パスルールとするのは「得意先名と金額」「振込人名と金額」などだが、銀行への入金の多くは入金手数料が差し引かれており、そのままでは金額が合致しない。これについてはBlackLineの自動仕訳で手数料分を補正した上で消し込みを行っている。


入金消込(出典:今川氏の講演資料)

 花王はマッチングおよび自動仕訳モジュールの導入により、「決算業務時間の30%削減」「自動マッチング/自動仕訳の実現」の他、「仕訳入力とタスク管理の連動」「押印の廃止による印刷の100%削減」などの効果を期待しているという。


導入効果(出典:今川氏の講演資料)

 今後はマッチングと自動仕訳のシナリオを拡充して横展開を進め、業務の標準化を進めてSSC化につなげていく考えだ。

 最後に、今川氏は今回のプロジェクトで成功の鍵となったキーワードとして「絶えざる思考と発想の転換」を掲げ、同様の取り組みを検討する企業へのアドバイスを次のように語って講演を締めくくった。

 「従来のやり方にとらわれず、常により良くしたいという気持ちを経理部門のメンバーが持ち続け、全てのメンバーが自ら考え続けることが重要です。受け身になり、誰かが解をくれるという思いでやっていると失敗します。そして可能な限りパッケージ製品などのベストプラクティスに合わせることが標準化の鍵になります」(今川氏)

前のページへ |       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

ページトップに戻る