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伊勢の「昭和」な食堂が店舗DXで生産性爆上げ その時社長は何をしたのか(1/2 ページ)

デジタルをうまく活用すれば地方の昭和な食堂の経営はここまで変わる。平均客単価3倍、従業員のスキル向上と事業拡大も実現、海外ITベンダーとも取引する地方の老舗食堂のビジネスはITでどう変わったか。代表の講演から具体的な施策を見ていく。

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 三重県伊勢市の「ゑびや大食堂」はITを駆使して劇的な大変革を成しとげたことで世界的に知られる。以前は事業の撤退も想定していたというが、現在は飲食店運営支援システムの開発、外販や小売やEC販売も手掛ける。ITを通じた生産性向上や顧客獲得のための施策をどのように進めたのか。

日焼けした食品サンプル、紙の台帳……「昭和」だらけの地方食堂が抱えた大問題

 三重県伊勢市にある「ゑびや大食堂」は約150年の歴史がある老舗食堂だ。明治から大正にかけては飲食店に加えて車屋を、その後も旅館業を始めるも戦争で観光客が減り、現在の業態につながる食堂へと転換したのだという。時代の変化に合わせて、業態を変化させて生き残ってきたと言えるだろう。このゑびや大食堂を経営するゑびやの代表を務めるのが小田島 春樹氏だ。

 小田島氏はもともと大学で会計やマーケティングを学び、東京のIT系企業に就職、人事や営業企画を経験してきた人物だ。ゑびやは小田島氏の義理の実家に当たる。

 小田島氏は「データやAI(人工知能)などのテクノロジーを活用して世の中をより良く変えようと志すのは自然の流れであり、誰でもやろうと思ったらできる」と力を込める。とはいえ、小田島氏が代表に着任した2012年当時のゑびやは人手不足やスケールさせにくい事業構造から撤退ムードにあふれていた。伊勢神宮の参道という好立地を生かし、貸し出して家賃収入を得る構想もあったという。「(就任当初である)10年前は撤退戦をしに来たつもりだった」と小田島氏は明かす。

 10年前のゑびやは昭和の雰囲気が残る家族経営の老舗食堂だった。表の食品サンプルは日焼けし、店内は真夏の海の家のように混沌としていた。売上台帳は紙に記録され、これが店舗唯一のデータベースだった。

ゑびや/EBILAB代表の小田島 春樹氏。投影されているのは昔の店舗の様子だ
講演するゑびや/EBILAB代表の小田島 春樹氏。投影されているのは昔の店舗の様子だ

 完全なアナログの世界で課題は山積、苦境にありながらも小田島氏には「お店を良くしていきたい」という情熱があった。当初は日々の店舗運営で時間を捻出できずにもんもんと過ごすものの、次第に課題も見えてきた。

 中小企業経営では会計や発注などあらゆる業務が経営者に任されてしまう。そのため小田島氏は経営を効率化するためにテクノロジーに活路を見いだした。またテクノロジー活用は経営だけではなくブランディングにも使えると見ていた。

デジタル化で客単価は3倍に その始まりはとてもアナログ

 2012年の小田島氏参画から約10年。現在のゑびやは変わらず伊勢の食堂なのだが、その運営は最先端のTech企業並みにデータを駆使したものになっている。いったい何が起こっていたのだろうか。

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