本格検討が始まった「デジタルドル」のゆくえは? 中央銀行デジタル通貨(CBDC)に関する米FRBの報告書を読む:Payments Dive
米国でも中央銀行デジタル通貨(CBDC)、いわゆる「デジタルドル」実現に向けた本格的な検討が始まった。この方針を決定付けた一冊のレポートがある。
2022年3月8日(現地時間)、米国のバイデン大統領は「暗号資産(仮想通貨)に関する大統領令」に署名した。いわゆる「デジタルドル」実現に向けた検討を本格化させるためのものだ。これに先立つ2022年1月には連邦準備制度理事会(FRB)がある報告書を発表していた。
「FRBは暗号通貨ブームの時流に急いで乗ろうとしているわけではない」――。これは、FRBが2022年1月に発表した中央銀行デジタル通貨(Central Bank Digital Currency:CBDC)のメリットとデメリットをまとめたドラフトペーパーからの抜粋だ。
40ページにわたる報告書(注1)は、政策の推奨事項を設けず、一般の人々からの意見が反映されるように設計されている。
FRBのジェローム・パウエル議長は、2022年1月20日のプレスリリースで「米国の中央銀行デジタル通貨のプラス面とマイナス面を検討する際に、一般人、選出された代表者、そして幅広い利害関係者から意見を聞くことを期待している」と述べた(注2)。
報告書は次のように注記している。
本報告書は特定の政策の成果を促す意図はるものではない。また、FRBが米国のCBDCを発行することの妥当性について差し迫った決定を下すことを意図するものでもない
なお、パウエル氏は2021年5月時点で本報告書を同年夏に発行すると約束していたが、複数の連邦公開市場委員会(FOMC)メンバー辞任やインフレ率上昇など他の問題の影響で延期されていた。
潮目が変わったCBDCの議論のゆくえ
近年、暗号通貨はウォーレン・バフェット氏ら著名な投資家が「詐欺」と非難して(注3)注目を集めた“目新しい何か”から「FRBが検討すべき政策オプション」へと発展をとげいる。
現在のデジタル貨幣は民間で流通しており、一般的に商業銀行の責任で運営されるのに対し、米国のCBDCはその責任を公共の利益のために活動することを目的とする政府機関である連邦準備制度に移行させるものだ。CBDCには懐疑的な意見もあれば、支持する意見もある。
決済業界団体の一つであるElectronic Transactions Association(電子商取引協会:ETA)は、2022年1月20日に発表したプレスリリースで、「CBDCの創設の可能性」について議論するための出発点としてこの報告書を「歓迎」した(注4)。
関連記事
- 「プログラム可能な民間デジタル通貨」とは何か 産業界のデジタル変革にどう貢献する?
中国でデジタル人民元の実証実験が進むなど、各国で「デジタル通貨」実用化に向けた試みが続いている。デジタル通貨はこれまでの通貨と何が違うのか。ITジャーナリストがデジタル通貨の本質に迫る。 - 決済・契約と商流全体の完全デジタル化 FinTech事業者や金融サービス仲介業者らはどう見ているか
決済・契約と商流全体の完全デジタル化に向け、標準化と仕様の公開に向けた活動が急ピッチで進む。FinTech事業者や金融サービス仲介業者らはこの状況をどう見ているだろうか。 - 2021年創業の「みんなの銀行」 勘定系をクラウドネイティブでゼロから構築
地方銀行グループが設立する新銀行がパブリッククラウドを前提としたクラウドネイティブな実装のシステムを採用する。FinTech系企業の参入障壁を解消する動きが進む中、既存の地銀でも軽快にIT戦略を実装できる環境の整備に本腰を入れる。
© Industry Dive. All rights reserved.