エネルギー業界のDX、デジタルネイティブ企業はどう見る? 「エネルギーの無価値化」に取り組むデジタルグリッド【後編】:DXリーダーに聞く エネルギー×DX(1/3 ページ)
エネルギー業界で進むDXを追う本連載に初のベンチャー企業が登場する。デジタルネイティブ企業であるデジタルグリッドはエネルギー業界のDXをどう見るのか。そして、同社が取り組む「エネルギーの無価値化」とは何か。
日本の産業を土台で支えるエネルギー業界において、DX(デジタルトランスフォーメーション)はどのように進むのか。DX推進における課題は何か。そして、DX進展後のエネルギー業界はどのような様相になるのだろうか。
「エネルギー×DX」の第3回となる今回は、ベンチャー企業であるデジタルグリッド社長の豊田祐介氏に話を聞く(参考記事:エネルギー業界のDX、デジタルネイティブ企業はどう見る? 「エネルギーの無価値化」に取り組むデジタルグリッド【前編】)。後編となる本稿では、デジタルグリッドが事業を通じて実現したい将来像と、デジタルグリッドのもう一つの事業、そしてエネルギー業界のDXの「壁」を聞く。
「競争力のある再エネ」に必要なものは?
デジタルグリッドは、電源開発出身の阿部力也氏が東京大学大学院教授時代に創設した総括寄付講座「電力ネットワークイノベーション(デジタルグリッド)」として2011年に誕生した。その後、2017年10月に「デジタルグリッドプラットフォーム」として創業し、同年12月、現在の社名デジタルグリッドに変更した。
2020年2月に電力取引システム「DGP」(デジタルグリッドプラットフォーム)を商用ローンチし、同年3月に「DGP」(環境価値取引プラットフォーム)としてJクレジットプログラム型認証を取得した。
同社が手掛けるのは電力及び環境価値取引プラットフォーム――つまり、これまで公的に運営されてきた電力や環境価値(注1)の取引所の民間版だ。
(注1)再生可能エネルギーなど環境負荷が低い電気から「電気」本体の価値を切り離し、「環境負荷が低い」価値のみを切り出したもの。
太陽光発電で残ったのは「地道でまじめな会社」
前編ではデジタルグリッドが提供するサービス内容を紹介したが、では同社のサービスを利用するのはどんな企業なのだろうか。
豊田氏は「ソニーや清水建設、住友林業などだ。コアな顧客は『一緒に再エネを増やしていく』という当社のビジョンに賛同してくれる、いわゆる意識の高い企業だ」と答えた(以下、特に断りのない発言部分は豊田氏によるもの)。
前編のおさらいになるが、デジタルグリッドは太陽光発電を中心とする再エネを発電する発電家と、再エネを買いたい需要家が直接取引する場を提供する。システムを自動化することで人件費等を抑え、売り手と買い手双方が納得感を持てる価格で売り買いすることを支援する。「再エネ投資をする企業が将来『得』をする仕組みを作っていきたい」
豊田氏は、「再エネを大量導入するために必要なのが、『競争力のある再エネ』だ」と語り、再エネの中でも特に太陽光発電のポテンシャルの大きさを評価する。
売り手から見た太陽光発電の特性について、「太陽光発電は限界費用が低い。海外から燃料を買う必要がなく、原子力や火力の発電システムに比べて故障もしづらい。メンテナンスも草むしり程度で済み、原価償却が終われば格安で電気を発電できる」と話す。
また、かつては豊富な資金力を背景に数十メガワット級のメガソーラーを開発する大企業が目立ったが、現在、開発の中心にいるのは中堅中小企業で、発電規模もメガソーラーではなく数メガワット級の「サブメガ」が多いという。「FIT(再生可能エネルギーの固定価格買取制度)単価の下落を受けて短期間で収益を上げたい企業は手を引き、地道でまじめな企業が残った印象がある。当社はこうした企業と手を組んでいる」
山や森などの樹木を伐採して建設するメガソーラーには「これは本当に持続可能な発電手段なのか」といった疑問の声もあった。「ミドルソーラーは空き地の草を刈る程度で建設できる。そうした小ぶりの土地は日本各地に多くある」
太陽光発電による電気の新規受け入れを中止する電力会社もあるが、太陽光発電システムで発電された電気を需要地に運ぶための系統にまだ連系できるエリアもある。「一つ一つの発電規模は小さいが、まだポテンシャルはあると思う。当社はこれらの小規模な電源を集約して、デジタルグリッドプラットフォームを通じて需要家に直接販売する」
「意識の高い」買い手企業
買い手企業については冒頭でも触れたが、彼らの意図はどこにあるのだろうか。
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