続く「半導体余り」 新工場建設に投資するCEOの“見立て”とは:Supply Chain Dive
供給不足から一転、生産過剰に転じた半導体。「前例がない」といわれるほど市場が冷え込む中、投資継続を決断したCEOのもくろみは“吉”と出るだろうか、“凶”と出るだろうか。
大手デジタル半導体メーカーであるMicron Technology(以下、Micron)のサンジャイ・メロトラ(Sanjay Mehrotra)CEO(最高経営責任者)は2022年9月29日、「2023年度、全てのエンドマーケットにおける前例のない需要の落ち込みに対処するため、半導体メモリのチップの生産量を削減する計画だ」と同社の決算説明会で伝えた(注1)。
アイダホ州に本社を置くMicronは設備投資を最大30%、チップ設備への投資を最大50%削減して生産を抑える予定だ。
下落続く、世界の半導体売上高
売上高の落ち込みにもかかわらず、Micronはアイダホ州ボイシにある生産施設でメモリ製造への長期的な投資を続けている。「米国で2番目のランダムアクセスメモリチップ工場(設立)の完成に向けて順調に進んでいる」(メロトラ氏)
半導体メーカーは、スマートフォンやPCの需要減退を背景に、ここ数カ月間、チップの供給過剰を報告している。Micron(注2)とAppleのサプライヤーであるTaiwan Semiconductor Manufacturing Company(TSMC:台湾積体電路製造)の両社は、販売不振を理由に2022年7月には在庫量を調整する対策を発表した。
メロトラCEOは「ウクライナ戦争や中国における新型コロナウイルス感染症(COVID-19)関連のロックダウン、インフレ圧力などが各分野における消費行動を阻害し、需要全体に悪影響を及ぼしている」と指摘した。Semiconductor Industry Association(SIA:半導体工業会)によれば(注3)、2022年8月の世界の半導体売上高は同年7月と比べて3.4%減少した。
Micronは需要減少を受け、コスト削減のために2022年7月に発表した設備投資計画を来期は見直す予定だ。
SIAのジョン・ニューファー氏(プレジデント兼CEO)は、「世界の半導体売上高の伸びはここ数カ月停滞しており、2022年8月の前月比売上高は2019年2月以降で最大の割合で減少した」と声明で述べた(注3)。
しかし、Microはただ生産を抑えるだけではなく、長期的な視点に立った投資は継続するとしている。これにはメロトラ氏の“見立て”が影響しているようだ。
メロトラ氏は「現在の供給増の調整と長期的なメモリチップの市場需要を考慮すれば、今後、需給バランスは回復する」と予想している。同社は、米国で20年ぶりにメモリチップの新工場を建設する「150億ドルのプロジェクト」に継続的に投資している。
メロトラ氏は「この長期的な製造投資は、当社の多様な製造拠点(fab footprint)をさらに強化し、今後見込まれる長期的なビジネスチャンスに対応するためのものだ」と投資家に語った。
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