ニトリが推進してきたデータ活用 機械学習導入のコツ:ニトリのデータ活用(1)
ニトリは2019年から機械学習導入に取り組んできた。「私たちは素人だ」と話す小林氏はニトリが機械学習に取り組むきっかけを作った人物だ。小林氏が話した、ニトリの機械学習導入の背景やツール選定の理由、今後の課題、機械学習に取り組みたい企業へのアドバイスとは。
企業におけるデータ活用の重要性は増している。ビジネスを成長させるためにデータドリブン企業を目指す組織は、AI(人工知能)を含めた機械学習導入を推進するが、その過程には「データの蓄積」「データの選定」「組織内での人材育成」など、さまざまな課題が存在する。
これらに対処しながら機械学習活用を進めてきた企業がニトリだ。同社は2019年12月から機械学習を導入し、物販や通販、販売、管理業務などに活用してきた。機械学習に注目した背景と、その過程での学び、さらに今後の展望を聞いた。
ニトリが機械学習導入に踏み切ったワケ
「各店舗に毎週商品を配送する中で、時には多すぎたり、また時には少なかったりといった問題があった。特に季節が変化する時期には配送内容も複雑になり、管理が難しかった。このような状況から、供給のバランスを取るには機械学習の力が必要だと感じた」――。こう話すのはニトリの小林 桂氏(情報システム改革室)だ。同氏はニトリにおける機械学習活用を推進してきたメンバーの一人だ。
小林氏によれば、ニトリは2019年の夏ごろから機械学習導入を検討し始めた。一方で、社内には「本当に機械学習で組織のパフォーマンスは向上するのか」という疑問があったという。そこで小林氏は機械学習自動化AIプラットフォームを提供しているDataRobotと協力して、機械学習導入後に効果が出るのかを予測し、費用対効果が高いことを確認できた後に導入へと踏み切った。
小林氏は機械学習の導入過程を振り返り、「当時は知識や技術が社内になく、これらが揃わないまま進めていた」と話す一方で「ニトリには2010年以降のデータであれば十分にあり、機械学習活用にすぐに生かせた」と続けた。
同氏によれば、2020年頃までは機械学習への理解は社内でも深まらず、人員育成や知識向上が難しかったという。しかし2020年以降は組織内における「データ活用への期待感」や「機械学習への期待値」が大きく変わり、今では定期的に全社向けのデータ分析教育講座を実施している。
DataRobotを選定した理由
ニトリがDataRobotを選定したのには、小林氏の意向が大きく関わっている。まず同氏は、機械学習を導入するに当たりインターネットで情報収集し、DataRobotを見つけた。さらに、既にDataRobotを利用している企業に、「DataRobotのデータ分析やサービスはどうか」「どのような人材ならツールを扱えるか」などをリサーチし、導入を決めた。
「自分たちはデータに関して素人だ。それを理解したうえで、使いやすく多くの予測モデルを提供してくれるツールがDataRobotだった」(小林氏)
実際にDataRobotで機械学習導入を進めてみてどうだったのか。小林氏は「他のサービスに比べても非常に簡単に始められる。一方で、若干だが『スパルタ方式』なサービスとなっており、ただ任せっきりになるのではなく、しっかりと運用方法が身に付く」と評価する。
従来のサービスの多くは、サービス料金を支払うことで基本的な設定や運用はベンダーに任せるというものが多い中で、DataRobotは「ユーザーとの伴走」を重要視している。ベンダー側が全てを担うのではなく、ユーザーが確かな知識や技術を得られるように、協力しながらデータ活用を進めるシステムを構築している。
「導入当初はこのサービスに面食らった感じもしたが、時間が経過してみると、『会社としてデータを扱えるようになるにはこのような過程が必要なんだ』と理解できた。今となってはありがたいと感じる」(小林氏)
小林氏によれば、機械学習の導入による最も大きな変化は「イレギュラーの予防」が可能になったことだ。イレギュラーが発生すると、多くの場合で顧客が影響を受ける。
小林氏は「『イレギュラーを未然に予測してほしい』という要望は現場を中心に、以前から挙がっていた。機械学習を取り入れることで『成功事例がなぜ成功事例なのか』『失敗はなぜ失敗なのか』を常に研究できるようになり、そこからイレギュラーの発生を防ぐ予測が生まれている。結果として、顧客満足度の向上にもつながる」と話す。
ニトリが解決すべき今後の課題と「今後挑戦する企業」へのアドバイス
小林氏は「これまでは『専門的な人材がいればその人たちがデータは扱えばいい』という考えだった。今後は全員がデータを使って組織の成長を考えられるようにならなければならない」と課題を話す。このような状況に対応していくために、ニトリでは今後5年で全社の5%がデジタル人材になるように取り組んでいく予定だ。
小林氏はインタビューの最後で、今後、機械学習導入を行いたい企業に対し「データ活用、機械学習導入に近道はない。最短ルートばかりを求めて基本が定着しなければ、その後のフェーズで対応ができなくなる可能性がある。結果を出すためには『なぜ』を説明できる力が必要で、それを身に着けるためには基本をしっかりと組織に定着させることだ」と語った。
関連記事
- 「データ分析はクロスクラウドが基本」老舗ベンダーが語るモダンデータ基盤の姿
スケーラブルなデータ活用を目指してモダンなデータ分析基盤を構築する動きが活発だ。老舗ベンダーが新たに、モダンなデータ基盤とデータ分析における「クロスクラウド」のアプローチを示した。マルチクラウドではなし得ない価値があるという。 - データ活用で「全社的な成果を得ている」はわずか2.2% 「人材不足」への対応以上に考えるべきこと
ガートナーの調査によると、日本企業のほとんどがデータ活用で全社的な成果を得るまで至っていない。組織全体でビジネス成果を得るには何が必要なのか。 - なぜデータ利活用プロジェクトは頓挫するのか? 大企業ほど陥りがちな「社内調整の壁」の乗り越え方
多くの企業でデータ利活用プロジェクトが進むが、開始前、あるいは開始直後に頓挫して後戻りするケースも少なくない。その原因と解決策をBIコンサルティングなどを手掛けるデータビズラボの永田ゆかり氏が解説する。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.