「少ない方が豊か」でないのはなぜ? Dellがマルチクラウド戦略を“激推し”する理由:CIO Dive
コロナ禍を経て、ものを極力増やさない「Less is More」(少ない方が豊かだ)の価値観が広がっている。しかし、Dellはクラウド戦略についてはマルチでオープンな方にメリットがあると提言する。その理由とは。
Dell Technologiesのミンディ・カンシラ氏(企業戦略担当バイスプレジデント)は、オープンなエコシステムの主な利点として、ソリューションやサービス間の相互運用性とより深い統合を挙げている。
原注:本稿はDell のカンシラ氏による寄稿です。
「少ない方が豊か」ではない、その理由とは?
マルチクラウドの世界では、企業はプライベート環境とパブリック環境に投資している。リアルタイムで生成される膨大なデータの流入を管理するために、エッジでスピンアップする新しい機能が次々と登場して、クラウドコンピューティングの威力を発揮している。
今、さらに多くのクラウドサービスが押し寄せてきている。テレコムクラウドやソブリンクラウドの他、医療や金融、政府、小売り、さらにメディアに特化したサポートやアプリケーション、サポートを提供する垂直(統合型の)産業クラウドサービスもある。
これらは、クラウドへの投資価値を最大化して、重要なビジネス目標を達成しようとする企業にとっては朗報だ。しかし、マルチクラウドを取り巻く状況は複雑化している。専門性の高いクラウドサービスの普及によって、企業がデータやアプリをクラウド間で自由に移動できなくなれば、サイロ化が進むかもしれない。
堅牢(けんろう)なマルチクラウド戦略によって、企業は柔軟性や拡張性といったパブリッククラウドが提供する効率を享受しつつ、パフォーマンスやコントロール、セキュリティなどの利点をオンプレミスで実現することが可能になる。
クラウド戦略を構築する際、1つのプラットフォームと1つのプロバイダーを選び、そのアプリと少数のパートナーに依存するというモノリシック(一枚岩のような)クラウドアプローチが当然の答えだと言う人もいる。
しかし、これではイノベーションが阻害される。クローズドプラットフォームは、クラウドと開発者のエコシステム(生態系)における「壁に囲まれた庭」のようなものだ。エコシステム全体の統合を後退させ、ベンダーのロックインにつながる。
初めは簡単なことのように思えるだろうが、独自のサービスセットに制限されるため、やがてイノベーションを取り入れたり採用したりすることをちゅうちょするようになるだろう。つまり、(モノリシックなクラウドアプローチによって)企業は長期的には損失を被ることになる。
複数のクラウドやサービスに投資している企業は多くの場合、その「バラバラの部分」から生じる問題を自分たちで解決することになる。問題の回避策のために、イノベーションや生産性に投じるべき時間とリソースが奪われるだろう。
IDCによると、3分の2の企業(66%)が「より少数の戦略的なデジタルインフラおよびクラウドベンダーと取引したい」と考え、68%が「ベンダーの固定化を避けることが重要だ」と回答している。
企業は、これらのクラウドやアプリケーション、プラットフォーム、サービスをシームレスに連携させたいと考えている。また、マルチクラウドをデフォルトではなく、デザイン(設計仕様)で実現したいと考えている。
しかし、企業は必ずしも単一のサービスプロバイダーとの契約を望んでいるわけではない。彼らは複数のクラウド環境にわたってデータやアプリケーションを管理してオーケストレーションする、よりシンプルな方法を求めている。
マルチクラウドは「パブリッククラウドの集合体」ではない では何なのか?
(仏教の教えで悟りを表す)「涅槃(ねはん)の境地」は単一の視点を得ることだ。より現実的な目標は、クラウド管理とオーケストレーションのためにサイロ化したツールの数を減らして、価値を向上させることだろう。
私たちはマルチクラウドの複雑性に対する解決策を違った角度から捉えている。サイロを取り払って幅広いパートナーシップやコラボレーション、イノベーションで繁栄するオープンなエコシステムを構築する。
マルチクラウドは、パブリッククラウドのランダムな集合体でもなければ、それらのクラウドがプライベートクラウドに緩やかに接続されているものでもない。マルチクラウドを実現する際、クラウド間で拡大し続けるイノベーションにアクセスして、最新のITを実現するためにエコシステム全体の能力が必要だと認識することが重要だ。
そこで登場するのがオープンなエコシステムだ。オープンなエコシステムは、ソリューションやサービス間の相互運用性とより深い統合を可能にして、さまざまなプロバイダーが提供する革新的なテクノロジーに容易にアクセスできるようにする。
こうして、テクノロジーは単に機能するだけでなく、企業が本当に必要とする方法で機能するようになる。クラウドコンピューティングを活用したAI(人工知能)と自動化によって、データ駆動型のブレークスルーを実現したいのであれば、そうする(マルチクラウド戦略を選択する)必要がある。
一企業やイノベーターが「テクノロジーの約束」を果たすことはない。また、そうあるべきでもない。これこそが、テクノロジー産業が信じられないほどの活気にあふれている理由だ。同時に、世界最大の問題を解決する可能性の境界を押し広げるために、絶え間ないイノベーションがもたらされている理由でもある。
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