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インタビュー

DX先進国の米国にも存在する「抵抗勢力」 彼らをやる気にさせる“魔法の言葉”とは「2023年自動化のトレンド」をUiPathに聞いてみた(1/2 ページ)

一般的にDX先進企業が多いイメージの米国だが、UiPathの鷹取氏は「実は『抵抗勢力』もいる」と語る。新しいツールの導入に協力的でない従業員をやる気にさせるためにどのような施策を打っているのか。

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 自動化がルーティンワークの負担を軽減するためのツールという認識は、過去のものになりつつあるのかもしれない。UiPathが自動化について同社の見解をまとめたレポート「2023年自動化のトレンド:最新情報、今後の展望、そして真価を引き出す道筋」(2023年1月公開)は、自動化の“真価”を引き出すために「全社的に自動化を推進する」方向性を示すレポートだ(注1)。

ベテラン従業員の離職で「いきなりピンチ」に陥らないために

 UiPath日本法人の鷹取 宏氏(ソリューション本部 アドバンステクノロジーアーキテクト部 部長/エバジェリスト)とテランドロ・トマ氏(ソリューション本部 アドバンステクノロジーアーキテクト部 エバンジェリスト)に同レポートで強調されている会社全体で自動化に取り組む重要性と、米国をはじめとする“自動化先進国”の企業が新しいツールの導入に前向きではない従業員をやる気にさせる施策を聞いた。

 以下、一問一答形式(敬称略)でお届けする。

――前編「ボスが「問題ない」って言うならヨシ? 日本企業の自動化を阻む“属人主義の壁”」ではテクノロジーを用いた業務の自動化について、いわば初心者向けの「なぜ業務の自動化を取り入れた方が良いのか」についてそば屋さんの例を挙げて具体的にお話しいただきました。

 後編ではある程度RPAをはじめとする自動化ツールの導入が進んでいる企業を念頭にお話を伺いたいと思います。ITRの調査によると(注2)、業務の自動化はさまざまなIT投資の中でも投資額が多く、かつ導入成果を実感している企業が多い分野でもあるようです(注3)。

 現状では、RPAを導入したことに満足して貴社が勧める「全社での自動化」はまだ視野に入っていないという段階にある日本企業も多いかもしれません。そうした企業に向けて、企業全体で自動化に取り組むことをなぜ推奨するのか教えていただけますか。

UiPathの鷹取氏
UiPathの鷹取氏

鷹取 企業は営利団体なので、利益を継続的に上げていくことが重要視されます。そのためには、1つ1つの業務だけでなく、企業の仕組みそのものをより効率化しなければなりません。

 なぜかと言うと企業は外的な要因による変化、例えば今回のようなパンデミックや戦争、あるいは急激なインフレにさらされることがあるからです。そうした場合、現在提供しているサービスの内容、あるいはやり方を変える必要があります。そのためには担当者レベルではなく「トップの判断」が求められます。われわれが企業のトップにテクノロジーに関する理解が必要だとしているのは、こうした理由からです。

 さらに、トップが決断して、サービス内容を変更しようとした場合にどうなるか。前編でお話ししたような従来型企業には「1人当たりの業務量×従業員の人数」という“成長の限界点”が存在します。あるいは、トマがお話ししたような属人的な要素が意思決定に大きく影響する企業では、ベテラン従業員が何らかの理由で離職した途端、いきなり生産性が落ちるといったリスクも考慮しなければなりません。

――トップがテクノロジーに関心を持たずに「今まで通りのやり方でいいんじゃない」という企業が抱えているリスクは、経営陣が想定している以上に大きい可能性があるというわけですね。

鷹取 それに対して、今はテクノロジーによって自動化できる業務の範囲が広がっています。工場で自動化が進んだのは、テクノロジーが「必要とされている基準」に追い付いたからです。

 ホワイトカラーの仕事でも同じです。RPAというテクノロジーによって、24時間にわたって「Microsoft Excel」にデータを入力し続けるという作業をロボットに任せられるようになりました。

 われわれはこうしたシステムで自動的にこなせる作業、つまりデジタル化しやすい業務を「構造化された業務」と呼んでいます。

「4日かかっていた作業がたった数分で完了」

鷹取 こうした構造化された業務はRPAによって自動化が進んでいて、日本企業にもかなり導入されつつあるというのはご指摘の通りです。

 ただ、人間がやらなければならないとされている業務も残っています。これをわれわれは「非構造化の業務」と呼んでいます。今は非構造化の業務でも自動化が進みつつあります。

 例えば、発注業務も非構造化の業務の一つです。データを基に「明日は雨だから傘の需要が増えるだろう」とか「近くでイベントが開催されるからおにぎりとお弁当の需要が増えるだろう」と予測して発注することは、これまでは人間しかできない業務とされてきました。しかし、今はAI(人工知能)を活用することで予測も自動化できるようになっています。

 あるいは、「この画像に表示されている飲み物はコーヒーなのか紅茶なのか」といった判定もAIで自動化できるようになってきました。

 こうして構造化された業務だけでなく、今まで自動化の対象になっていなかった非構造化の業務まで自動化できるようになりました。

――人間しかできないとされてきた業務がどんどん自動化の対象になりつつあることで、企業はどのような恩恵を受けられるのでしょうか。

鷹取 従業員1人ができる業務の生産性がかなり上がります。

 私が担当した例で言うと、ある独立行政法人の研究所で解析検査をしている研究者の仕事の進め方が大いに変わりました。

 その研究者は実験後のマウス100匹の神経細胞の数を数え、実験結果のレポートを作成して、次の研究に入るというサイクルで研究を進めています。従来は1週間のうち、細胞の数をカウントするのに4日かかっていたのを、AIを導入したことでたった数分で終わるようになったんです。

 つまり、それまで実質的な研究日数が1週間のうち1日しかなかったのが、ほぼ5日間確保できるようになった。言い換えると、約1カ月分の研究が1週間で、30年分の研究が6年間でできるようになったわけです。

――以前インタビューした生物学者に「研究対象の生物を長期間観察していた大学院生が疲労で血尿を出した」と聞き、データを集めるためにかかる労力が途方もなく大きいことに驚きました。よい活用法が見つかれば、AIが研究の質に貢献する余地は大きそうですね。

鷹取 それを可能にするのがRPAとAIを組み合わせた自動化です。構造化の業務の自動化と非構造化の業務の自動化をうまく組み合わせられれば、研究者は研究だけに集中できます。研究者の本来の仕事は細胞の数を数えることではなく研究です。テクノロジーによって、そこに集中できるのです。

 これはわれわれ民間企業の業務も同じです。営業部門が顧客と向き合う時間が増えれば、顧客満足度の向上につながる可能性があるし、マーケティング部門であれば、新しい製品やプロモーションについて考える時間を増やせるようになるでしょう。

 記者の仕事も、文字起こしや要約がAIでできるようになってずいぶん変わったんじゃないですか。

――おっしゃる通り、数年前までインタビュー10分当たり約40分かけて文字起こししていましたが、今はAIツールを使うことで文字起こしに時間をかけることはほぼなくなりました。

鷹取 別の業務に時間が使えることで、新しい企画を立てたり新しいサービスの創出などに時間をかけられたりできるようになる。

 これを「人の削減効果」と見ることもできます。10人でやっていた仕事を1人でやることができるから、残りの9人はいらないと。しかし、われわれUiPathが目指すのは、今まで10人でやっていた仕事を1人に任せて、残りの9人は人間にしかできない仕事をやっていこうという世界です。これがテクノロジーを用いた自動化が目指す企業像です。

 おそらくこれを聞いて、「それでもうちは自動化をやらない」「研究者はこの先もずっと、細胞の数を数えていけばいいんだ」って言う企業はあまりないと思うのですが、いかがでしょうか。

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