ローコードが生み出すのは"ごみアプリ"か? それとも"イノベーション"か? Microsoftのローコード(Power Platform編):DX 365 Life(4)(3/3 ページ)
企業がDXを成功させるために、"内製化"は重要なテーマです。「何から始めるべきなのか」「どのように取り組むべきなのか」が分からない人には、「Microsoft Power Platform」がヒントをくれるかもしれません。
具体的に、どんなアプリ開発から始めたらいいのか?
このような質問への回答として、筆者は以下の2つを勧めます。1つ目が「デジタル化されていないマニュアル作業のうち、実装難易度の高くないシンプルなアプリ開発から着手する」こと。2つ目が「システムのリプレース時にトレーニングやテスト工数、オペレーション工数を削減するために、現状のシステムに類似したUXを開発・実装してみる」こと。とにかく取り組みやすい所から組織でDX(Developer Experience)に挑戦することに意味があります。
結果がすぐにでなくても焦る必要はありません。小さな失敗を繰り返しながら大きな成功をつかめばよいのです。ここでは失敗を許容する文化や風土の共創に時間を割いてください。「早めに失敗してくれてありがとう」とメンバーが言えるようになると、それは補完し合えるチームが完成しつつある伏線で、近いうちにノールックパスがチームメンバー内で活発に行われます。
現場は「手作業のプロセスが多く非効率で無秩序」「複数のITツールがサイロ化していてエクスペリエンスが断片化」「各種システムやプロセス間の統合が不十分」という課題を抱えがちです。この場合はプロセスをデジタル化し、大規模に効率化する必要があります。Power Automateの活用で通知を含めて自動化プロセスを用意すれば、アンストラクチャーな状況においても組織やチームのノールックパスの成功率を高めます。
具体的にはインテリジェントなワークフローを使用し反復的なプロセスや紙ベースのビジネスプロセスをデジタル化しましょう。800種類以上の既存コネクターの活用でアプリ側に分断されていたデータを統合し、Power Appsで開発したツールに全データを迅速かつ簡単に表示しましょう。
例えば現場担当者が利用しているSAPやOracle、Salesforceなどのサービスを1つの画面に統合し、それらが持つデータを「Microsoft Dataverse」に集めてマネージドデータプラットフォームでデータの重複や競合を特定し解消すればインサイトの精度を高められます。ここにAIをベースに構築された24時間365日利用可能なチャットbotを組み合わせれば、カスタマーサービスのアプローチにイノベーションを起こすことも可能です。ユーザーがいつでもどこでもデータを操作できる環境は変化の激しい時代には不可欠です。
日本企業では承認プロセスが「効率性と顧客満足度を低下」「現場担当者による付加価値の高い活動を妨害」している状況も多発しています。この場合の対応も上述同様で問題ありませんが、承認処理を「Microsoft Teams」で完結させるのも良い方法だと言えます。
業務を可視化する上で「ワークロードの状況を一部しか把握できていない」「複数の場所やチーム、スケジュールについて、現場のインサイトをタイムリーに集めるのが困難」「時代遅れのシステムや紙媒体の記録により資料の検索が不可能」といった課題を抱えている現場担当者も多いでしょう。
このような場合に現場担当者のインサイトを活用すれば、現場から情報を迅速に収集し、フィードバックを得られます。数百種類の視覚化や組み込みAIなど、有用なセルフサービス分析を使用しデータから重要なインサイトを取得しましょう。また、IT管理者は社内で「最も使用されるアプリ」と「最も使用されないアプリ」など、社内におけるローコードの利用状況を把握する必要があります。
開発リソースが不足している場合はノーコードやローコード、コードファーストのアプリ開発、プロセスの自動化で効率的にイノベーションを促進できます。また、ガバナンスの強化で市民開発者からプロの開発者まで誰でも開発に貢献できます。
自社のエンタープライズエコシステムを活用できていない場合は、豊富な構築済みプレミアムコネクターを使用して重要な業務アプリをプロセスやフローに直接組み込めます。
データを最大限活用できていない場合は、拡張が容易なデータ構造とビジネスロジックを持つMicrosoft Dataverseで複数のアプリを容易に接続できます。データの処理においては「AI Builder」を併用し、現在作成または使用している業務プロセスフローにAI機能を追加でき、付属のマネージドデータレイク内のデータをPower BIレポートや機械学習(ML)、データウェアハウス、下流のデータ処理などで対応できます。Power Platformで強力なビジネスソリューションを構築すれば、業務プロセスや組織を変革できる可能性があります。
シャドーITなどへの懸念事項がある場合は、マネージド環境を通じて可視性やセキュリティ、ガバナンスを担保できます。境界を設定することでIT担当者は使用状況を容易にモニターでき、セキュリティに関しても、データ損失防止(DLP)ポリシーを作成してユーザーが意図せず業務データを公開してしまうのを防ぎます。定義済みのセキュリティロールを使用もしくは新しいロールを定義して、データやリソースの権限を細かく調整することも可能です。
上記は活用の一例ですが、企業の抱える課題に対してMicrosoftのローコードソリューションであるPower Platformは既に解を示しています。Power Platformを組織でフルに活用すれば、IT戦略と運用モデルを洗練させてより迅速で効率的な対応が可能になるのです。
“日本でも利用が進むPower Platform”
最後にローコードの導入で大きなインパクトを世界に与えた2つの企業の事例を紹介します。
1つ目はT-Mobileです。同社はPower Platformを活用したアプリ(T-Mobile社内でのアプリの呼称はOrbit)で「9万7000時間を削減し約5億円のコスト削減」を実現しました。T-Mobileは2021年にSprintを買収し、OrbitをSprintのレガシーシステムと統合する必要がありました。
T-MobileはPower Automateのロボティックプロセスオートメーション(RPA)機能で2つのシステムを一つにして運用できるように実装しました。その結果、11倍のリクエストをリアルタイムで処理し、全体の処理時間を12倍も改善しました。また、7%も発生していたエラーが0%になりました。
2つ目はSchlumbergerです。このストーリーは特にIT部門に関係のある内容で、石油やガス業界のグローバル企業が変革して関係者全員が開発者になるというストーリーです。
事業戦略としてのDX(Developer Experience)を推進したというのは、まさに日本が見習うべき事例の一つといえます。
Schlumbergerの当時の資料には、「過去18カ月間で32カ国の1万人を超える月間アクティブユーザーが650以上の運用アプリを、120人以上の市民開発者がプラットフォーム上でソリューションを構築した」とあります。また「夏に実施したPower Platformハッカソンには47カ国から1000人以上がサインアップし、1週間で約100のソリューションを構築した」ともありました。数年前に開催されたMicrosoft Igniteでのセッション映像があります。ローコードが従業員の業務にどれだけのインパクトを与えることができるのか。是非ご覧ください。
Gartnerは2025年までに企業が開発する新規アプリケーションの70%が、ローコードまたはノーコードテクノロジーで実装されるようになると予測しています。
読者の皆さまの企業では、Power Platformを活用して、今後どのようなイノベーションを起こしますか?
本稿ではITを単なる支援ツールからビジネスの戦略パートナーへと進化させること、そして"真の"Developer Experienceを経験した個人や組織がどのようにノールックパスを出せるようになっていくのかを期待値を込めて解説しました。日本から世界に誇れるDX事例が数多く発信されるのを願っています。
次回は、Microsoftのビジネスアプリケーション領域のAIについて解説します。
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