製造業のデジタルツイン活用、どう進む? 矢野経済研究所が予測
矢野経済研究所の予測によると、国内製造業では、IoT活用による設備保全の高度化/次世代型メンテナンスの導入が進展し、2023年度の工場デジタル化市場規模は1.7兆円超となる見通しだ。特に注目されるのは、モノづくりと親和性の高いCPS/デジタルツインの活用促進だ。
矢野経済研究所は2023年4月26日、工場デジタル化市場の市場規模予測を発表した。
工場のデジタル化が進展 ジタルツインの活用はどう進む?
同予測は矢野経済研究所が2022年12月〜2023年3月にITベンダー・SIer、機器・装置メーカー、通信キャリア、ユーザー企業などを対象に実施した調査を基にしている。
同調査によって、国内の工場では多くの業種や業態で生産設備、機器の保全やライン稼働監視などにIoT(モノのインターネット)やクラウド、AI(人工知能)を使った収集データによって異常検知や故障監視、稼働監視・遠隔モニタリング、設備保全の高度化、省エネ用途・エネルギー使用量の可視化といった次世代型のメンテナンスが導入されつつあることが分かった。
外観検査などの検品や品質保証、高度な自動化・生産最適化、現場作業者の業務支援、研修、トレーニングといった領域におけるIoT活用も広がっている。
背景には近年、大型の製造装置や生産機械、高額な設備に通信機能(IoT機能)が組み込まれ、業種や業態、企業規模にかかわらず製造装置、生産機械やユーティリティー設備(電気設備、空調設備、給排水設備など)の稼働監視、遠隔モニタリングなどへのIoT活用が普及していることがある。これらの要因によって製造現場ではデジタル活用が進み、2022年度の国内の工場デジタル化市場規模(ユーザー企業の発注金額ベース)は前年度比101.7%の1兆7040億円なると矢野経済研究所は見込む。
注目されるデジタルツインの活用
工場のデジタル化で今後注目されるのは、モノづくりと親和性の高いCPS(サイバーフィジカルシステム)やデジタルツインだ。IoTの普及により、さまざまなデータが収集されてクラウドに蓄積されることで、CPSやデジタルツインの活用も進むとみられる。現状でも、多くの計測機器やセンサー類、FAカメラが製造ラインに設置され、さまざまなデータが収集されている。
CPSやデジタルツインを活用することで、フィジカル空間(実世界)のモニタリングや収集、蓄積されたデータに基づいた高精度な、デジタル(サイバー)空間でのシミュレーションが可能になる。フィジカル空間データから将来の機器の故障や変化を予測したり、膨大なデータや事例の蓄積に基づき、顧客に対して異常原因を分析した結果から対処方法をフィードバックしたりするとなど、通常のメンテナンスサービスとは異なるモノ、コト一体型サービスを提供することが可能になるとしている。
CPSが実現すると、フィジカル空間とデジタル空間を融合した製品開発や製品改善につながり、業務が効率化され、開発時間が短縮される。
他にも、蓄積されたデータは企業にとって競争力の向上につながる。製品の使い勝手を設計担当にフィードバックすることも、低コストで容易にできるようになる。
矢野経済研究所は、「今後は製品販売で収益を得るだけでなく、CPSやデジタルツインを活用したユーザー企業へおのサービス提供により対価を得るビジネスモデルに転換する製造業が増えていく」と予想する。
今後の展望としては、「日の丸半導体」メーカーによる国内工場の新設をはじめとする、政府による半導体生産能力増強施策の他、円安や経済安全保障、中国で事業を展開するリスクを避けるための「製造業の国内回帰」が追い風になるとみる。日銀短観によると国内の設備投資計画は堅調に推移する見通しだ。設備投資では製造装置、生産機械向けが主体となるものの、工場向けIT、IoT投資にもこの流れが波及すると考えられる。2023年度の工場デジタル化市場規模は、前年度比103.4%の1兆7620億円に拡大すると矢野経済研究所は予測する。
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