海運業界でも進むデジタル化 「過去の轍」を踏まないためにすべきことは?:SupplyChain Dive
海運業界では、ブロックチェーン技術を利用したプラットフォームの活用や紙の船荷証券から電子船荷証券への移行などデジタル化が進んでいる。しかし、過去には大企業が取り組んだにもかかわらず途中で打ち切られた“失敗プロジェクト”もあった。
海運業界のデジタル化が進んでいる。日本の海運大手である日本郵船や商船三井、川崎汽船のコンテナ船事業を統合して設立されたOcean Network Express(以下、ONE)は、貿易業務のデジタル化を推進するためGlobal Shipping Business Network(以下、GSBN)に加盟したことを2023年5月30日付けのプレスリリースで発表した(注1)。
IBMが携わった「失敗プロジェクト」 過去の轍を踏まないためにすべきことは?
GSBNはブロックチェーン技術を活用したデータ交換プラットフォームを運営する非営利団体だ。
ONEは、GSBNの貨物リリース技術を試用して加盟を決めた。同技術を利用することで、輸入貨物の書類手続きにかかる時間を数日から数時間に短縮できるという。
会員になったことで、ONEはGSBNが提供するブロックチェーン技術に対応したプラットフォームを利用できるようになった。他にもCOSCO SHIPPING Lines(中国)やHapag-Lloyd(ドイツ)、OOCL(香港)といった海運会社がGSBNのメンバーとなっている。
海運業界は、輸送プロセスのデジタル化に向けて複数の段階を踏んでいる。2023年2月には、ONEを含む船会社9社が世界的な共通技術基盤の確立を目指すDigital Container Shipping Association(DCSA)の一員として(注2)、紙の船荷証券から電子船荷証券への移行を約束した。
ONEのジェレミー・ニクソンCEO(最高経営責任者)は「デジタル化がますます進展する中、海運業界が新しいグローバルスタンダードと取引の効率化を取り入れ、進化と適応を続けることが重要だ」と声明で述べた(注3)。
GSBNも同様の取り組みを進めており、自社のプラットフォームを使ってデータのサイロ化を解消することを約束している。GSBNのWebサイトによると、同社の貨物輸送プラットフォームは現在、1万以上の顧客にサービスを提供している(注4)。
GSBNのバートランド・チェンCEOは「海運業界は、デジタル化によって飛躍的に発展する可能性を秘めた重要な時期にある。成功には信頼できる協力関係が必要だ」とプレスリリースで述べた。
海運業界は、以前もプロセスのデジタル化を試みたことがある。デンマークの海運コングロマリットMaerskとIBMはかつてブロックチェーンプラットフォーム「TradeLens」の商業化に向けて提携したが、商業的な実現性がなかったため(注5)、両社は2022年にこの構想を打ち切った。
(注1)GSBN welcomes Ocean Network Express to further expand collaboration and digitalisation in shipping(GSBN)
(注2)9 ocean carriers commit to 100% electronic bill of lading by 2030(Supply Chain Dive)
(注3)DCSA’s member carriers commit to a fully standardised, electronic bill of(Digital Container Shipping Association)
(注4)Cargo Release(Digital Container Shipping Association)
(注5)Maersk, IBM to shut down blockchain joint venture TradeLens(Edwin Lopez)
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