パナソニック コネクトが打って出る「一大勝負」とは? SCMに注力する理由を樋口社長に聞いてみた:Weekly Memo(1/2 ページ)
生産、物流現場のDX支援に注力するパナソニック コネクト。その戦略ツールであるサプライチェーン管理(SCM)の普及が、同社の今後の成長のカギを握る。なぜ、SCMなのか。「一大勝負」に勝算はあるのか。同社社長の樋口泰行氏に聞いてみた。
「日本の企業が生み出したDX(デジタルトランスフォーメーション)に関する新しいツールを、グローバルで広く展開していくことはなかなか難しい。だが、未開拓の市場はまだある。そこでわれわれは海外からそうした市場に向けたツールを手に入れた。それを磨いて一大勝負に打って出たい」
こう語るのは、パナソニック コネクト社長の樋口泰行氏だ。今回、同社のDX支援ビジネスをテーマにインタビューの機会を得た。上記は、その中で筆者が最も印象に残った発言であり、今回の取材の核心である。
パナソニック コネクトがSCMに注力する理由は?
樋口氏はこれまでIT業界におよそ30年にわたって従事し、前職では日本マイクロソフトの経営トップを10年務めた経歴を持つ、この分野で日本を代表するキーパーソンの一人だ。
一方で、新卒でパナソニック(当時は松下電器産業)に入社し12年勤務。2017年4月に出戻った形で現職に至っており、パナソニックと縁が深い人物でもある。
筆者はこの30年の中で折りに触れて同氏に取材してきたが、パナソニック再入社後はその機会がなかった。というのは、エンタープライズ向けITの切り口では取材しづらい面があったからだ。
だが、今やITがDXへと大きく広がる中で、パナソニック コネクトのビジネスに興味深い動きが出てきた。同氏の冒頭の発言は、まさしくそれを象徴している。未開拓の市場とはどこか。そこに向けた新たなツールはどんなものか。そして、一大勝負に打って出るとはどういうことか。
パナソニック コネクトはパナソニックグループで生産や物流、小売り向けの機器やソフトウェアの開発から販売、施工、保守までを手掛ける事業会社だ。売上規模は2022年3月期で9249億円。「顧客現場」のDXを幅広く支援している(図1)。
そんな同社が今、新たな戦略事業として注力しているのが、サプライチェーン管理(SCM)だ。パナソニックグループが2021年9月に約78.9億ドル(当時のレートで約8600億円)で買収した米ブルーヨンダーのSCMソフトウェアを中核に据え、既存の製品やサービスも組み合わせて適用範囲の広いソリューションに仕立て上げる計画だ。
樋口氏が冒頭の発言で「海外から未開拓の市場に向けたツールを手に入れた」と話していたのは、ブルーヨンダーのSCMソフトウェアのことだ。ブルーヨンダーは製造や物流、小売りなどの業界向けにSCMをクラウドサービス(SaaS:Software as a Service)として提供している。同サービスは「AI(人工知能)技術を活用した予測やプランニングに基づくSCM機能」「サプライチェーン全体のガバナンスが容易」などを強みとしており、顧客企業は世界で3000社を超える。
では、ここからは核心に向けて、樋口氏へのインタビューを一問一答形式でお届けしよう。
――なぜ、パナソニック コネクトはSCMを新たな戦略分野として注力することにしたのか。
樋口氏:SCMのクラウドサービスが非常に有望な市場だからだ。SCMについては、さまざまな分野の生産、物流現場のDX支援を行う当社にとってまさしく戦略事業として推進できると考えた。既存事業との連携も広げられる。
――SCMは企業における基幹業務の一環でもあり、すでに多くの競合ベンダーがひしめく激戦市場だが、差別化ポイントはどこか。
樋口氏:SaaSとして提供することだ。クラウドサービスはIaaS(Infrastructure as a Service)/PaaS(Platform as a Service)とともに業務ソフトウェアによるSaaS領域も普及に拍車が掛かっているが、実はSCMのクラウド比率についてはグローバルでも20%未満と他の分野に比べて低い。つまり、まだまだ未開拓の市場ということだ。
――SaaS事業については熟知しておられる。
樋口氏:SaaSの利用拡大がユーザーにとってもベンダーにとってもどれだけインパクトがあるものか、前職で目の当たりにしてきた。とりわけ、これからは日本においてSaaSのインパクトが一層大きくなるだろう。なぜならば、ツールの利用形態の変更だけでなく、SaaSによって業務オペレーションの標準化、さらには自動化を進めていかないと、グローバルでの競争を勝ち抜くことなどできないからだ。
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