パナソニック コネクトが打って出る「一大勝負」とは? SCMに注力する理由を樋口社長に聞いてみた:Weekly Memo(2/2 ページ)
生産、物流現場のDX支援に注力するパナソニック コネクト。その戦略ツールであるサプライチェーン管理(SCM)の普及が、同社の今後の成長のカギを握る。なぜ、SCMなのか。「一大勝負」に勝算はあるのか。同社社長の樋口泰行氏に聞いてみた。
生産、物流現場のデータ活用にアドバンテージ
――なぜ、ブルーヨンダーのツールを選んだのか。
樋口氏:SaaSは今後、企業におけるDXの重要な要素として需要が一段と高まるだろうが、当社を含めて日本の企業が生み出したDXツールをグローバルで広く展開することは、なかなか難しい。そこでブルーヨンダーのツールに着目した。すでにグローバルでしっかりとした顧客基盤を築いているので、これをさらに磨いて当社の技術やノウハウを注入すれば、グローバルで一大勝負に打って出られるのではないかと考えている(図2)。
――パナソニック コネクトはPCなども提供しているが、今後、オフィスツールを手掛ける考えはないか。
樋口氏:今のところはない。事業としてどういう分野へ進出するかという論議で、私が最も重要なポイントと考えているのはデータのアドバンテージだ。例えば、オフィスやコミュニケーションの分野だと、これまでもこれからもGAFAM(Google、Apple、Facebook《現・META》、Amazon、Microsoft)にデータが集まるのは明らかだ。同じ分野でこれから勝負に挑んでも勝ち目はない。だが、当社の事業根差しているのは生産や物流の現場で、そこから発生するデータを活用する術はわれわれに一日の長がある。このアドバンテージをSCMでさらに確固たるものにしていきたい(図3)。
――SCMは、効果的に稼働させるためにも需要変動への迅速な対応が求められる。そのためには、販売管理や営業支援システムなどとの連携も重要だ。ブルーヨンダーのSCMはその点、柔軟に対応できるのか。
樋口氏:もちろん、さまざまな業務ソフトウェアと連携できる。実際には、SAPのERP(Enterprise Resource Planning)とつなぐケースが多い。そのため、SAPとは緊密に連携している。需要との連動でいうと、時間による需要の増減によって値付けを臨機応変に変化させるダイナミックプライシングを自動的に行う仕組み作りにも取り組んでいる。こうした新たな仕組み作りに最先端のAIやIoT(モノのインターネット)の技術をどんどん取り入れている。
以上が、樋口氏へのインタビュー取材のエッセンスだ。
最後に需要変動への対応の話が出たので、これに関連する30年ほど前の筆者の取材経験を以下に記しておこう。
1980年代後半〜1990年代初めにかけて、生産現場でITを活用して自動化を目指す「ファクトリーオートメーション」(FA)化が進んだ。さらに多様な需要に対応した多品種少量生産に柔軟に対応できるようにしようということで、「コンピュータインテグレーテッド・マニュファクチャリング」(CIM)という取り組みが一躍ブームになった。
筆者は1990年から2年ほど新聞記者としてこの分野を担当した際、CIMをテーマにさまざまな業種の生産現場を50カ所ほど取材して連載記事にした。いずれの取材でも、当時の最新技術を駆使して多品種少量生産を実現しようという意気込みが感じられた。
しかし、その直後に起こったバブル崩壊でどの業種も需要が大きく減少し、むしろCIMに大きな投資をした企業ほど厳しい状態に陥るのを目の当たりにした。そこで強く感じたのは、モノの生産にITを活用する際は、需要変動自体に迅速に対応してリスクを最小限に抑える仕組みを整備することが何よりも肝要ということだ。
今回のSCMの話を聞いて、CIMの二の舞にしてはならないという思いから、樋口氏にも昔話を聞いてもらった。SCMは今、グローバルの観点から地政学やデータ保護におけるリスクが注目されている。そうした動きも含めた需要変動への迅速な対応こそが、今後の最大の差別化ポイントになるのではないか。しかもそこには、30年前にはなかったAIやIoTなどの技術をどんどん活用できる。
果たして、パナソニック コネクトの「一大勝負」はどうなるか。注目していきたい。
著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。
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