ゴールドマン・サックスはなぜ“オタク文化”に20億ドル投資するのか?:CIO Dive
Goldman Sachsは約20億ドルを投資してエンジニア文化を構築している。その取り組みの詳細を同社のテクノロジーフェローが解説する。
Goldman Sachsのイリヤ・ゲイシンスキー氏は2010年、中堅のソフトウェアエンジニアとして、技術的なスキルを捨てずにリーダーに昇進しようと考えていた。
現在、Goldman Sachsのプラットフォームソリューション部門でテクノロジーフェロー兼エンジニアリングリードを務める同氏は「私は完全なコンピュータオタクだ。ソフトウェアを作るのも、ソフトウェアを作るエンジニアと一緒に働くのも大好きだ」と語る。
ゲイシンスキー氏は、Goldman Sachsのエンジニア文化を入社後すぐに肌で感じたという。
「私を面接した男性の1人がスタンディングデスクでコーディングをしていたところを見て、ここは大きな組織を運営しながら成長し、実践的かつ技術的であり続けられる場所だと思った」(ゲイシンスキー氏)
約20億ドルを投資して“ITオタクに優しい文化”を構築
企業のモダナイゼーションにおいて、イノベーションに向けた文化の創造は重要な課題だ。その文化を長期にわたって維持するために必要な人材を確保するには、より深いコミットメントが必要であり、技術力だけでなく技術者のレベルも高めなければならない。
Goldman Sachsは2019年、当時、Amazon Web Services(AWS)で技術バイスプレジデントを務めていたマルコ・アルジェンティ氏をパートナー兼共同CIO(最高情報責任者)に任命し(注1)、40億ドルのエンジニアリング予算の半分近くをイノベーションに充てたことで、技術に対する優先順位を明確にした。
2019年10月には、フィンテック事業を主にクラウドベース部門であるプラットフォームソリューションに統合することになる(注2)。
その前の7月には、前共同CIOのジョージ・リー氏がAlphabetの元役員であるジャレッド・コーエン氏と共に新設した「応用イノベーション室」の指揮を執ることになり(注3)、アルジェンティ氏はGoldman Sachs唯一のCIOとなっている。
技術の追求とマネジメントを両立できるフェローシッププログラム
Goldman Sachsには、組織再編に加えてイノベーションを促進する既存のエコシステムがある。その中のフェローシッププログラムを通じて、ゲイシンスキー氏のような技術者を技術そのものから遠ざけることなく、指導的な役割に昇進させられる。
「信頼できるリーダーとして、技術に近いところにいることが重要だ」とゲイシンスキー氏は言う。
このプログラムによって、優秀なエンジニアを引き付け、定着させ、昇進させられる。また、エンジニアに昇進への明確な道筋を示し、ビジネスに影響を与える道筋も提供する。
フェローは、テクノロジーベンダーやツール、アーキテクチャの決定に大きな影響力を持つとゲイシンスキー氏は言う。同社では技術的な専門知識に限らず、さまざまな要素を総合的に判断して、2年ごとに新しいフェローを選出する。
「このプログラムは、キャリアを積む中で大規模なチームの運営に興味を持つ可能性のある技術者に重点的に投資するものだ」とゲイシンスキー氏は説明する。
エンジニアとしてのスキルだけでなく、より広範なイノベーションを推進するための資質も重要だ。同氏によれば、Goldman Sachsはビジネスや指導を通じて、社内外の開発者コミュニティーに大きな影響を与えることに関心のある候補者を求めている。
重要なのは、有望なエンジニアをリーダーシップの道へと導くことであり、そのために必要なツールの導入を避けるべきではない。
「私は今でもできる限りコーディングしている。エンジニアリングのリーダーとして、最新の技術をキャッチアップするためだ」(ゲイシンスキー氏)。
(注1)Goldman Sachs brings on co-CIO, CTO(CIO Dive)
(注2)Goldman Sachs’ restructure prioritizes tech(CIO Dive)
(注3)Goldman Sachs to split up co-CIOs in innovation push(CIO Dive)
関連記事
- 「学ばない日本人、人材に投資しない日本企業」とはもう言わせない(Microsoftのビジネスアプリケーション ラーニング・コミュニティー編)
DXを成功させるために、企業はそれぞれのツールに対する理解を深める必要があります。本稿はMicrosoftのビジネスアプリケーションを効率的に学ぶ方法を解説します。 - 「未経験者でもいいから……」 セキュリティ人材獲得に向け採用基準を見直す企業も――(ISC)2調査
(ISC)2は国内企業のセキュリティ担当者650人を対象にした調査結果を発表した。同調査から企業におけるセキュリティ人材不足の現状とその原因、人材の採用状況、AIツールに対する考え方などが明らかになった。 - 「人も、経営層の理解も、予算も足りない」 ないない尽くしの中小企業のDX、どうすべき?
DXを進めようにも人も足りなければ経営層の理解も得られず、当然予算も出ない。当然セキュリティ対策はしなくてはいけないが、やはり予算が不十分。「ないない尽くし」の中小企業では、会社が管理できていない「シャドーIT」や退職後に削除されずに放置されているクラウドサービスのアカウントがセキュリティリスクとなっている。 - レイオフの中でも求められ続けるIT人材は?
2022年は景気悪化もあり米国企業ではレイオフが頻発した。多くの労働者が解雇されたが、そんな中でも技術職の需要は高まっており、失業率は低下している。2023年もDXに注力する企業は多く、エンジニアの争奪戦が続きそうだ。
© Industry Dive. All rights reserved.