IBMが温室効果ガス排出量を追跡する「IBM Cloud Carbon Calculator」の提供を開始
AIの活用が進む現在、タスク処理のために必要となる膨大なエネルギー量とそのために発生するGHG排出量の増大は、サステナビリティ経営に取り組む企業にとって頭の痛い課題だ。
IBMは2023年7月26日(現地時間)、「IBM Cloud Carbon Calculator」の提供を開始したと発表した。企業がクラウドサービスを利用することで発生する温室効果ガス(GHG)排出量を追跡し、ハイブリッドクラウドやマルチクラウドの利用を通じてサステナビリティーパフォーマンスを向上させられるよう支援するとしている。
AI(人工知能)を活用したダッシュボードでは、「IBM Cloud」で利用できるAIやハイパフォーマンスコンピューティング(HPC)、金融サービスなどのワークロードの排出量データにアクセスできる。
IBM Cloud Carbon Calculatorの主な機能は次の3つだ。
さまざまなワークロードのGHG排出量を追跡する機能
IBM Cloudのワークロードの詳細なGHG排出量データにアクセスできる。GHGプロトコルに従って、個々のクラウドサービスやクラウドのロケーションに関連するGHG排出量が可視化され、追跡可能になる。フィルターを使うことでロケーションやさまざまなサービスの排出量プロファイルを確認できる。これらの機能は、一般的に使用されているクラシックサービスやクラウドネイティブインフラストラクチャサービスに対応し、今後は四半期ごとに対象サービスを増やす予定だ。
GHG排出のホットスポットと改善点を特定する機能
月別、四半期別、年度別にGHG排出量を分析できる。目標に対する進捗状況を定期的に把握可能だ。排出量のトレンドやパターンを把握することで、異常やホットスポットを発見し、得られた知見を活用して、ほぼリアルタイムに戦略を調整し、拠点間の作業負荷を最適化することで、最終的に排出量を削減できる。
GHG排出量レポート向けのデータを活用する機能
IBM Cloud Carbon Calculatorが生成した出力と監査証跡を使って、報告書を作成できる。排出量データをESGレポート作成のためのデータ管理基盤「IBM Envizi ESG」に統合することで、より詳細な分析の実施や報告書の作成を支援する。
投資家や規制当局、ユーザーから二酸化炭素(CO2)排出量削減の要望が高まっている現在、CO2をはじめとするGHG排出量削減は経営課題でもある。IBMの調査によると、「今後3年間の最重要課題」として環境の持続可能性を挙げたCEO(最高経営責任者)の割合は42%に上る。CEOは生成AIを採用するプレッシャーに直面する一方で、AIで成功を収めるために必要なデータ管理を重要視していることが同調査で分かった。
また、同調査では、CEOの43%以上が既に生成AIを使用した戦略的意思決定を行っている。
IBMは「AIワークロードに必要なデータ処理の増加は、GHG排出量削減を目指す企業に新たな課題をもたらす可能性がある。企業は高性能ワークロードの実行とサステナビリティーを両立させる準備を整える必要がある」と指摘する。
IBM Cloud Carbon Calculatorは、こうした課題に対応できるようにGHG排出量増加に関連する可能性のあるデータのパターンや異常値、外れ値を迅速に発見できるとしている。IBMは、同社の研究部門であるIBM Researchが培った技術とIntelとの協業に基づき。機械学習(ML)を含むAIを利用して、企業がITワークロードにおける排出量のホットスポットを発見し、排出量削減戦略に反映させるための洞察を提供するとしている。
IBM Cloud担当ゼネラル・マネージャーのアラン・ピーコック氏は「AIトランスフォーメーションロードマップの一環として、企業はクラウドとオンプレミス環境にわたって、増大するデータをどのように管理するかを検討する必要がある。(中略)AIを活用したIBM Cloud Carbon Calculatorによって、ユーザーが自社のITワークロードに関連するGHG排出量をよりよく理解し、戦略を調整し、サステナビリティー目標を推進するための洞察を得られるよう支援する」 と述べた。
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