検索
特集

レッドソックスの球団経営はエッジコンピューティングでどう変わったか?CIO Dive

レッドソックスは、コーチやマネジャーが選手の分析や動画、データを使って素早くインサイトを得られるように、クラウドやエッジコンピューティングを活用しているという。

Share
Tweet
LINE
Hatena
CIO Dive

 Major League Baseball(以下、MLB)は2023年、ファンの体験を向上させるために、試合中の投球時間を短縮するピッチクロックを導入するなど、近代化に向けて慎重に動き出した。しかし、Boston Red Sox(以下、Red Sox)はさらに1歩先を行き、クラウドとデータ戦略の見直しを目的としたデジタルトランスフォーメーションに着手した。

Red Soxはエッジコンピューティングをどう活用したか?

 2023年3月下旬にメジャーリーグのシーズンが始まると、Red Soxのテクノロジーチームはフランチャイズのハイブリッドクラウド戦略を再編成し、IBMとクラウドストレージのベンダーであるWasabi Technologies(以下、Wasabi)とのパートナーシップを活用してテックエコシステムを強化した(注1)。

 IBMのハイブリッドクラウドと「IBM Cloud Satellite」のエッジコンピューティングアーキテクチャは、2022年10月にMLBが戦略的提携を拡大した「Google Cloud」と互換性があり、分散型でかつ統合されたソリューションを立ち上げるためのハードウェア統合を提供する(注2)。WasabiはIBMと提携し、オフサイトのクラウドデータストレージを扱う。

 Red Soxのシニアバイスプレジデント兼CTO(最高技術責任者)であるブライアン・シールド氏は「エッジコンピューティングのコンポーネントはプライベートクラウドに似ている」と『CIO Dive』に話した。

 このソリューションでは、洞察に活用できる情報に素早くアクセスする必要のあるコーチやマネジャーの手の届くところに、選手の分析や動画、データを保管する。シールド氏は「これらの資産はクラウドに移行する前にエッジコンピューティングに保存される」と述べる。

 こうした分析の一部はWasabiを通じてファンに提供され、他のデータソースと統合される。

 「規模を拡大しつつ、他製品との接続性も提供できるパートナーを見つけなければならない。他のテクノロジーと接続できるということは、14の異なるデータソースを詳細なレベルで理解する必要がないということだ。それは、効率的にリソースを確保するわれわれの能力を上回るだろう」(シールド氏)

 「WasabiとIBMのパートナーシップはマルチベンダーのソリューションとして設計されている」と、Wasabiのクラウド戦略担当バイスプレジデントであるデビッド・ボーランド氏はCIO Diveのインタビューで語った。

 現場のIBM Cloud Satelliteでは「Red Hat OpenShift」やIBMの「Edge Application Manager」、及び類似のツールを実行し、データをWasabiに転送して保存、取得できる。

 「IBM Cloud」の製品・設計担当バイスプレジデントのブリアナ・フランク氏はCIO Diveに「エッジコンピューティング機能はデータソースにまで拡張され、顧客にサービスの責任を負わせることなく、パブリッククラウドの待ち時間を短縮できる。これはデータが存在する場所にクラウドを持ち込むようなものだ」と語った。

クラウドは歴史ある球場まで変革した

 野球は、その神話的な歴史やファンの慣習、選手の迷信、移り変わるチームのライバル関係など、その特殊性が有名かもしれない。しかしITの観点から見ると、フランチャイズの経営は、民間航空会社や金融会社、ホスピタリティチェーンといった、幅広い地理的展開やビッグデータのニーズ、競合するステークホルダーの要求、柔軟で弾力性のあるクラウド機能に対する意欲を持つ企業の経営とさほど変わらない。

 「ほとんどの大企業がそうであるように、スポーツフランチャイズにとってのクラウドは私たちが呼吸する空気のようなものだ。クラウドは運営方法の全てであり、大規模なものだ」(シールド氏)

 シールド氏は、Red Soxの111年の歴史を持つフェンウェイパークが、球場から複合施設へと変貌を遂げたことを指摘する。

 「もはや野球観戦に行くだけの場ではない。われわれは今、非常に大規模なメディア環境を運営している」

 球団の親会社であるFenway sports Groupは、2022年にフェンウェイに5000人収容できる「MGMミュージックホール」をオープンさせ、現在、公園周辺の土地に200万平方フィートの商業、住宅、小売スペースを開発中であると2023年3月に発表した(注3)。

 シールド氏の仕事は、チームのデータニーズにとどまらず、100億ドル近いエンターテインメントとホスピタリティの拠点を運営するための、より広範な技術的需要にまで及んでいる(注4)。

 テクノロジーのアップグレードは、同氏の最も直接的な関心事だ。クラウドやエッジコンピューティング、データストレージの強化は、次に挙げる球団のIT資産の3本柱をターゲットにしている。

  1. フロントオフィスのITやERPシステムなど、伝統的なビジネスコンポーネント
  2. ファン体験を導く、顧客向け資産
  3. アナリティクスを処理し、複数の異なる球場でチームのパフォーマンスを追跡する野球運営テクノロジー

 シールド氏は「球団は、クラウドを通じてアクセスするだけでなく、テクノロジーを移動時にも持ち運んでいる。世界中にいる130人以上のスカウトを加えて、最高の有望株を見つける手助けをしようとすると複雑なモデルになる。多くの動く部分と膨大なデータがある」と述べる。

 ダイナミックな環境において、サイロ化せず洞察を制限することなく、コストとアクセスをコントロールすることは、ビッグデータに関する共通の課題である(注5)。大手テック企業のDynatraceの委託を受け、CIO(最高情報責任者)を対象に実施されたColeman Parksの調査によると、ほとんどのテックリーダーはマルチクラウドのエコシステム全体で可視性とセキュリティの確立に苦労している。

 Red Soxは、時間のプレッシャーによってすでに困難な問題を悪化させた。Red Soxに10年以上在籍しているシールド氏によると、データストレージが増大するにつれ、オンプレミスのストレージモデルは実行不可能になった。

© Industry Dive. All rights reserved.

ページトップに戻る