トヨタの情シスはDXにどう取り組んでいる? 講演から「トヨタらしい取り組み」を考察:Weekly Memo(2/2 ページ)
トヨタ自動車はDXにどう取り組んでいるのか。デル・テクノロジーズの年次イベントで基調講演を行ったトヨタ自動車 情報システム本部本部長の講演を基に考察する。
社内外のDXを全てリードする情報システム部門
トヨタ自動車の情報システム本部では、DXの取り組みに伴って、デジタル時代における働き方についても新たなスタンダードをつくろうということで、「会社」「従業員」「お客さま」それぞれの目線で求められる取り組みを明示した(図5)。最も重要なのが「お客さま目線」で、「ごく一部のお客さまだけでなく、多くのお客さまと常時接続し、お客さまデータを起点に『お客さまケア』と『商品・サービス企画』を実行」することだとしている。ちなみに、同社は「体験」(コト)は「モノ+サービス+印象」だと定義付けている。この「印象」はブランドとも深く関わって難しい要素だと筆者は感じている。
日比氏は、情報システム本部の在り方についても説明した。
図6は、トヨタ自動車のこれまでの情報システム本部の姿で、「効率化を主目的に、各プロセスに準拠した基幹システムを構築しサポートしてきた」(日比氏)と言う。基幹システムの「お守り」をしてきたとの見方もできるが、「これで今の当社の業績にしっかりとつながってきたという自負はある」(同)とのことだ。
日比氏は「ただ、今のままでいいというわけではなく、DX、さらにモビリティカンパニーに向けて基幹システムの形も変える必要がある」と述べた。変化のポイントとして「データのオープン化」と「DXによる見える化」、そしてそれらを実現するための基幹システムにおける「プロセス横断の全体最適」を挙げた。すなわち、図6から図7に移行させようというわけだ。
違った観点で見れば、これまでの社内情報を中心とした「B2B」(B to B)だけでなく、顧客ニーズに対応する「B2C」も合わせてIT/デジタル活用のトータルガバナンスを行っていく役割が、情報システム本部に求められるようになる(図8)。
日比氏は最後に図9を示し、「全てをお客さまから始め、データの大動脈を通し、データの循環環境を構築することが、当社のDXの大方針だ」と述べた。図9の左側はCX(カスタマーエクスペリエンス)環境の変革が求められるフロントエンドサービス、右側は業務の高度化を目指したIT/デジタルのバックエンドの仕組みを指す。図9はすなわち、トヨタ自動車のIT/デジタルに関わる業務を一枚の絵に集約したものである。
「情報システム本部としては、こうした環境をできるだけ早く、しっかりとつくり上げていきたい」(日比氏)
以上、見てきたように、トヨタ自動車では情報システム部門が社内外のDXを全てリードする形になっていることに、筆者は大いに興味を抱いた。ただ、社内のDXに本格的に取り組み始めたのが2年前、社外向けDXとして捉えたコネクティッドカー事業を担うことになったのはこの10月からなので、結果を出していくのはまさしくこれからだ。情報システム部門にDXが担えるのかとの見方もある中で、同社の今後の動きには大いに注目していきたい。
著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身
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