「SaaS×生成AI」の差別化ポイントとは? 日本オラクルの会見からユーザー視点で探る:Weekly Memo(2/2 ページ)
「SaaS×生成AI」によるサービスが注目されているが、ユーザー視点で選ぶ際の重要なポイントはどこにあるのか。日本オラクルの会見から探りたい。
日本オラクルのSaaS事業をけん引する3氏の見解とは
武藤氏に続いて説明に立った善浪氏は、インフラストラクチャ(IaaSとPaaS)とアプリケーション(SaaS)から構成される「Oracle Cloud」の基本的な仕組みと実績を図4に示した。同氏はOracle CloudにおけるSaaSについて、「当社ならではの強力なインフラで動くSaaSとして既に確固たる実績を上げている」と、フルスタックのクラウドサービスであることが、大きな特徴だと強調した。
図4で示した仕組みを、さらに詳しく示したのが図5だ。要はERPやSCM(サプライチェーン管理)、HCM(人材管理)、CX(顧客体験)といった主要業務のアプリケーションを取りそろえており、インフラにあるAIをはじめとしたテクノロジーをそれらと同じクラウドで組み入れられるわけだ。
善浪氏は同社が提供する生成AIの特徴について、「エンタープライズファースト」「信頼性」「セキュア」「スケーラブル」の4点を挙げ(図6)、これらによって「生成AIは劇的な生産性向上を実現する」と強調した。
生成AIが業務アプリケーションごとにどのように生産性向上をもたらすかについて、具体例を図7に示した。善浪氏は、「今後も各業務プロセスに生成AIをどんどん組み入れていき、詳細なユースケースを提示できるようにしたい」と述べた。
以上が、日本オラクルの今回の会見におけるエッセンスである。質疑応答で、筆者は冒頭で示した「ここにきてSaaSベンダーからの発表が相次いでいる生成AI搭載サービスを、ユーザー視点で選ぶ重要なポイントはどこにあるのか」という問題意識をぶつけてみた。この質問のポイントは「ユーザー視点で選ぶ」ところだ。結果的にオーバーラップするところはあろうが、単にベンダーの強みを聞いているわけではない。言い換えると、「ユーザーから見た差別化ポイントは何か」ということだ。
これに対して武藤氏や善浪氏、塚越氏はそれぞれ次のように答えた。
「SaaSとして生成AIを素早く実装でき、快適に利用できることだ。そのためにはSaaSを支えるインフラがしっかりしており、さまざまなテクノロジーを迅速かつ柔軟に使えることが重要だ。生成AIではデータの活用がポイントになるので、データベース環境の整備も注視する必要がある。しかもそれらをセキュアに実施するには、やはりエンタープライズグレードのSaaSを選ぶのが得策だ」(武藤氏)
「総合的なコストパフォーマンスはどうなのか、生成AIの使い勝手でいえば学習スピードはどれだけ速いのかなど、チェックポイントはいろいろある。その中で私からは、今後生成AIを搭載したSaaSを利用していく上で、全く心配することなくスケールしていけるのかどうかという点を強調したい。スケーラビリティだけでなく、それに伴うコスト負担はどうなるのか。企業が成長するにつれて、SaaSの利用頻度は高まっていく。そのスケールにおけるコストパフォーマンスを注視していただきたい」(善浪氏)
「フルスタックのクラウドサービスに対しては、ベンダーロックインへの懸念があるかもしれない。ただし、生成AI搭載SaaSを使い続ける上で、(図6にあるように)エンタープライズグレードであり、信頼性やセキュアであることに加え、スケーラブルであることは欠かせない要件になってくる。さらに、私からは(図7にあるように)多様な業務要件に素早く対応可能かどうかも注視してほしいと申し上げておきたい」(塚越氏)
3人とも「当社製品をぜひ使ってほしい」と言いたいところだろうが、「ユーザー視点」を踏まえて懸命に答えていただいたことを付記しておきたい。
最後に、筆者からもユーザーに一言申し上げておきたい。SaaSに組み込まれた生成AIについては、「何ができるか」を見極める一方、自分たちが「何がしたいか」を明確にし、その要求を満たしてくれるサービスを自らの手で探し求めるべきだ。しかし、そのためには生成AIの“中身”を知る必要がある。どうすればよいか。とにかく「小さく始めて」でもいいので、一刻も早く使い始めることが大事だ。生成AIに学習させる前に、まず自らが生成AIを学習すべきだ。今回の日本オラクルの会見を通じて、そう感じた次第である。
著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身
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