マルチクラウドによる基幹システム開発は可能か? 金融機関の挑戦に見る:Weekly Memo(1/2 ページ)
北國銀行がマルチクラウドによる勘定系システムの開発を開始した。Google Cloudが開催したイベントの基調講演で同行のトップが明らかにした狙いとは。筆者が注目するポイントとともに紹介する。
北陸地方を活動拠点とする北國フィナンシャルホールディングス(北國FHD)傘下の北國銀行が、マルチクラウドによる勘定系システムの開発を開始した。Google Cloudの日本法人グーグル・クラウド・ジャパンが2023年11月15〜16日に東京ビッグサイトで開催した「Google Cloud Next Tokyo ‘23」の基調講演で、北國FHD社長で北國銀行頭取を務める杖村修司氏が明らかにした。
「Microsoft Azure」と「Google Cloud」を同期更新
北國銀行が開発に着手したのは、「Microsoft Azure」と「Google Cloud」のマルチクラウドによる勘定系システムだ。現在、同行の勘定系システムはMicrosoft Azureで稼働している。2026年度までにGoogle Cloudを合わせたマルチクラウド環境で新たに構築するシステムを稼働させる計画だ。これにより、可用性を飛躍的に高めたい考えだという。「もし稼働中のクラウドが障害を起こしても、もう一方のクラウドに切り替えることで30分程度の短時間でサービス再開が可能になる」と、杖村氏は強調した。
今回の取り組みの背景には、何があるのだろうか。
北國FHDは2023年1月、フルクラウド化による金融サービスを備えた「次世代地域デジタルプラットフォーム」の構築を目指したプロジェクトをスタートさせた。既に個人のインターネットバンキング、法人インターネットバンキングの開発を進めている。このたび、このプラットフォームの中核となる「次世代コアバンキングシステム」、すなわちマルチクラウドによる勘定系システムの開発を開始することにした(図1)。
杖村氏は新たなシステムへの移行について、「現在の勘定系は1つの巨大なシステムのため、小回りが利かない面もある。経営サイドとしては今後20〜30年先を見据えて、フロントシステムと勘定系の生産性を同等のレベルにしたい。そこで、マルチクラウドの長所を生かせるシステム構造を採ることにした。それはすなわち、コンテナ化とJava化によるアプリケーション構造の見直しを図るということだ。これにより、WindowsやCOBOLから脱却したい」との思いを語った。
なぜ、新たなクラウドとしてGoogle Cloudを採用したのか。同氏はその理由として次の3つを挙げた。
- 安定性: Google Cloudは大規模な障害の発生率が非常に低い。従って、マルチクラウドの一つとして組み合わせることで障害に対するコントロールがしやすくなり、システムの高可用性を保持できる。さらに、マルチクラウドはクラウド間のネットワーク品質が“肝”になるが、これもGoogle Cloudの最新技術である『Cross-Cloud Interconnect』の採用に向けて準備を進めている。これにより、障害対策とともにレイテンシー(遅延時間)の削減が期待できる
- コンテナ技術における実績: Googol Cloudのコンテナ技術は比類がないと評価している。特に銀行の勘定系システムには、大規模かつ効率的なコンテナ運用が必要となる。ここでは『Google Kubernetes Engine』の採用を進めている。これにより、Googleの堅牢な基盤を活用することができる
- 企業カルチャーの親和性: 北國FHDとGoogleの企業カルチャーは非常に親和性があると感じている。Googleマインドの研修を受けたことで、社内は大いに活性化し、心理的な安心感が高まった
Google Cloudのイベントなので、杖村氏の話もGoogle Cloudの採用理由の説明に時間を割いていた。中でも「Cross-Cloud Interconnect」は今回の勘定系システムのマルチクラウド化における、まさしく“肝”といえそうだ。障害対策であればバックアップやディザスタリカバリーなどの手段もあるが、マルチクラウドで同期更新する仕組みを障害対策にも適用するところに、同行の顧客サービスへの姿勢が強く感じられる(図2)。
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