データからアクションを起こせない企業に欠けていること どうすればデータドリブン経営は走り出すのか?
業種や規模などは関係なく、どんな企業にもビジネスに生かせるデータはある。だが、その価値に気が付かずに蓄積したままでは意味がない。データを価値あるものへと変えるために必要なこととは。
データドリブン経営を実践するには収集したデータから即座に有用なインサイトを導き出すことが必要だ。セルフサービスBIの普及によって、そのハードルは下がった。だが、当然ながら漠然とツールを利用するだけでデータドリブン組織に転換できるわけではない。
ユーザー企業におけるデータ活用の現状と課題、解決策について、データ分析プラットフォーム「Tableau」を提供するセールスフォース・ジャパンの森田青志氏(Tableau事業統括本部 専務執行役員 統括本部長)に独自取材し、データ組織に転換できる企業とそうでない企業の差がどこで生まれるのかを尋ねた。
十分な分析戦略もないまま進めようとする「データ経営」の現実
森田氏は過去のユーザー調査を引き合いに出しながら、ユーザー企業のデータ活用の現実を次のように語った。
「われわれが日本の1000人のビジネスリーダーを対象とした調査『Untapped Data Research』によれば、回答者の83%がデータドリブン組織に転換したいと望む一方で、『所属する組織はデータドリブンな組織だ』と認識しているビジネスリーダーは30%に過ぎません。これは、データドリブン経営の理想と実態が懸け離れるていることを示唆していると言えるでしょう」
同氏によれば、このギャップが生まれる理由は主に3つ考えられるという。1つ目は、収集したデータの信頼性が低いことだ。データ項目の意味定義が社内で統一されることなく目的または部門ごとにデータの収集を進めてしまうと、横串で連携することが難しく、集めたデータを十分に活用できない事態に陥ってしまう。
2つ目の理由は、分析戦略が不明確なことだ。そもそもデータをどう活用するかを決めないまま取り組みを進めてしまうと、ツールを導入した段階で満足してしまい、実際の活用にまで至らない。
さらに、経営トップのエンドース(承認、支援)も欠かせない。分析戦略を策定しデータアナリストが分析を進めたとしても、その戦略がトップの肝いりであることを社内に示さなければデータ活用の必要性は現場に浸透しない。まずは経営トップがデータドリブン経営への道筋を示し、分析戦略に対して「意志入れ」をすることが重要だ。
まずは、データ活用を推進する決意をトップが表明すること
データドリブン経営を目指す企業が挫折しないために、セールスフォースはさまざまな支援策を提供する。
「『We help people see and understand data』(人々がデータを見て、理解できるよう支援する)。これは20年前から変わらない当社のコンセプトです。『理解できる』には洞察を得るだけでなくデータによって意思決定し、アクションにつなげることを示しています。支援の一つとしてわれわれはTableauを使ったデータドリブン経営のメソドロジーをまとめた『Tableau Blueprint』を公開しています」(森田氏)
Tableau Blueprintにあるプロセスの一つに「分析戦略の策定」がある。データ分析の目的とは何か、その結果としてどのような成果につなげたいのか、ビジネス成果の進捗(しんちょく)状況を追跡するためにはどのようなKPIが役立つのかがまとめられている。
これらを軸に戦略を策定した上で、CEOが従業員に対して計画を推進する決意を表明することが重要だと森田氏は訴える。そして、このステップを踏んだ後に、システムの導入やリテラシー教育、コミュニティーづくりなどに取り組むことを同氏は推奨する。また、トップだけでなく人事部門も巻き込みながらデータ人材の育成に力を入れている例もあるという。
「各部署のビジネスユーザーが中心となり、データ分析の中核組織としてCoE(Center of Excellence)を組成する企業もあります。そこで1カ月ほどデータ分析やBIツールの使い方を学び、自部署に戻ったらTableauの“伝道師”として活躍してもらうことが目的です。データ人材育成のために、人事部門もデータドリブン経営にエンドースするということです」
データをアクションにつなげるストーリーを描く
データ活用を組織文化として根付かせるために、CoE組織が旗振り役となって社内イベントを開催するなどして組織全体を巻き込むことも有効だ。
「データ活用に強い組織では、データ活用コンテストなどのイベントには必ずと言っていいほどCEOや部門長も出席しています。また、単にデータ分析結果を説明するだけでなく、分析結果を基に新規ビジネスのアイデアを考えるなど、アクションにつながるデータストーリーを考えている人を評価しています。こうした組織はデータ活用に対するモチベーションを高く保つことができるのです」
森田氏によれば、データ活用コンテストなどの取り組みが従業員の行動変容につながるきっかけになり、今度は「もっと正しいインプットデータが必要だ」「他のデータも欲しい」などの声が上がるようになるという。その結果、より良いデータを準備しようという機運が生まれる。そしてデータが充実すれば、分析もさらに高度になる。つまり、必ずしもデータを万全に整備してから分析を始めなくても、好循環をつくり出すことはできるということだ。
このようにトライアンドエラーを繰り返しながらデータ活用文化の定着に取り組む企業は多くはないものの、各業界に何社かは存在するという。セールスフォースではTableauコミュニティーを設け、製造業や流通業などの業種別、あるいは地域、部門別、中小企業向けなど、多様なジャンルのMeetupを開催してデータドリブン経営の成功事例を共有している。
データ活用組織への転換をサポートするセールスフォースの新たな製品ポートフォリオ
セールスフォースは企業のデータドリブン経営をさらにサポートするために、生成AIを活用したTableauの新機能をリリースする予定だ。その一つが「Tableau Pulse」だ。AIを用いてデータから求めるインサイトを抽出する。また、質問を投げかけるだけで必要なインサイトやヒントを返してくれる。より速い意志決定が可能となり、データアナリストにとってはレポート作成にも役立つ。
2024年6月にリリース予定の「Einstein Copilot for Tableau」は、プロのデータアナリスト向けの機能だ。AIと会話しながら実用的なViz(Tableauで作成されたグラフや表)やダッシュボードを簡単に作成できる。これまで数時間かけていた作業が短時間でできるようになるなど、生産性向上に寄与する機能だ。
また、2023年8月にはセールスフォースのSFA(営業支援ツール)である「Sales Cloud」の情報を「Slack」に統合する「Slack Sales Elevate」も発表された。日常的なビジネスコミュニケーション用途で使うSlackをインタフェースとして、Sales Cloudのパイプライン情報の更新やデータの確認が可能になる。今後、TableauにおいてもSlackとの連携を進める計画だという。Tableau Pulseからの通知をSlackで確認し、迅速なアクションにつなげるなども可能になるはずだ。
「Sales CloudとSlack、Tableauの統合が進むことで、データの収集や分析、活用がより容易になるでしょう。そして、アクションにつなげることでデータの御利益が得られるようになれば、データドリブン文化は醸成されます」と森田氏はコメントする。
まずは、データ分析を基に次のアクションにつなげる仕掛けが、肝と言えそうだ。
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