SAPジャパン社長が「2024年は“ビジネスAI元年”になる」と宣言 その根拠を聞いてみた:Weekly Memo(2/2 ページ)
2023年もあとわずか。2024年、企業のIT活用はどのように変化して進化していくのか。企業の基幹業務を担うERPをはじめとするエンタープライズアプリケーション市場をリードするSAPジャパンの鈴木洋史社長の話から探った。
SAP Business AIの3つのユーザーメリットとは
鈴木氏はさらに、SAP Business AIのユーザーメリットとして、次の3つを挙げた。
- ビジネスAIとしてセキュアであること: 「ERPをはじめ長年にわたって業務アプリケーションを提供してきたSAPの高度なセキュアレベルをSAP Business AIにも適用する。SAPが提供する安全、安心はビジネスAIとして大きなアドバンテージだと自負している」(鈴木氏)
- データを有効活用できること: 「クラウド上に蓄積されるデータをAIの学習データとして利用すれば、お客さまにとってさまざまなビジネス価値を生み出せる可能性がある。また、クラウド上でのデータやアプリケーションの利用状況から、お客さまとSAPとの間でAIを活用して業務プロセスの効率化に向けて共創作業できるようになる。それにより、SAPがこれまでグローバルで蓄積してきた業務に関するベストプラクティスもお客さまに活用していただけるようになる」(鈴木氏)
- 「クリーンコア」の促進: これはSAP Business AIのユーザーメリットというよりも、有効活用するためにクリーンコアにすれば、ERPをはじめとしたSAPのクラウドアプリケーションが進化し、企業競争力を向上させ続けることができるという意味だ。
クリーンコアとはすなわち「Fit to Standard」のことだが、鈴木氏はここでの説明でクリーンコアという言葉にこだわった。なぜか。同氏は次のように説明した。
「ERPはこれまでコア部分に拡張機能をアドオンする形で使われるケースが多く、それではコアを機能強化する際に拡張機能が連動せず、全体として強化できない状態が発生した。そこで、これまでのオンプレミスからクラウド利用へ移行する際に、コア部分とSAP Business AIのような拡張機能を切り分けた形にして、それぞれに機能強化を迅速に図れるようにした。その拡張機能の開発・実行環境として『SAP Business Technology Platform』(以下、SAP BTP)を用意している。つまり、これからはクラウド上でクリーンコアとSAP BTPをうまく使い分ければ、SAPのERPは今後スピーディーに強化できるようになり、お客さまのビジネスにさらに貢献することができると確信している」
鈴木氏のこの説明から、クリーンコアがキーワードであることがお分かりいただけるだろう。そしてSAP BTPはPaaSとして、SaaSであるクリーンコアのERPと分離しながらも密接に連携していく形になる。同氏が言うように、特に日本企業はこれまでアドオンの多いERPを構築してきたケースが多いが、今後はクラウド上でクリーンコアとSAP BTPを使い分ければよいのではないか。そうすることで拡張機能の“断捨離”もできるようになり、その結果、ビジネスの効率アップにつながっていくだろう(図2)。
鈴木氏は取材の最後にこう話した。
「これまで2024年に向けてビジネスAIやクリーンコアとSAP BTPに関する話をしてきたが、これらは全て、お客さまである日本の企業の経営効率を上げてビジネスを伸ばしていただくためのツールとして役立ててもらうことが当社の大命題だ。2024年が創業32年目となるSAPジャパンは、これまでERPをはじめとした業務アプリケーションを提供してお客さまのビジネスが成長するように努めてきた。しかし、グローバルの中で日本企業が競争力を発揮できたかというと、さまざまな調査結果を見ても競争力が低下している。このことに対し、強い危機感を抱いている。これからSAPのクラウドERPをフル活用して業務変革を進め、SAP Business AIを使ってデータをフル活用してビジネスを伸ばしていただきたい。当社はその支援に全力を挙げていく」
振り返ってみると、2023年のIT分野は「生成AI」に大きな注目が集まった。2024年はその生成AIも含めたビジネスAIの「元年になる」というのが鈴木氏の主張だ。それが単にトレンドとしてだけでなく、「SAPがそうして見せる」との心意気を感じる取材だった。この動きは日本企業におけるIT活用の変化や進化にも大きく影響するだろう。注目していきたい。
著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身
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