クラウド化が進む今こそ考える、ERP導入のメリットと課題(2/2 ページ)
ERP導入のメリットとデメリットについては既に十二分に取り上げられている。しかし、クラウド移行によってERPの性質は変わりつつある。本稿ではクラウド時代におけるERPの利点と課題をまとめなおす。
ERP導入のデメリットとは
ERP導入のデメリットは以下の通りだ。
データセキュリティ
自社の監視の目が行き届く場所に全てのデータが集められるというメリットがある一方で、1カ所に全てのデータが集められれば、サイバー犯罪者もターゲットを絞りやすい。ERPがサードパーティーのベンダーによってクラウドにホストされている場合、自社の機密データを手元で完全に管理できなくなる恐れもある。少なくとも、このソフトウェアをホスティングしている企業は、そのデータにアクセスできるはずだ。
もう一つの問題点は、多くのERPがユーザーネームとパスワードだけで保護されていることにある。このような認証情報はフィッシング攻撃の標的にされることが多い。ERPをセキュアにするには、多要素認証やデータマスキングなどの追加のセキュリティを確保する仕組みの検討が必須だ。
総費用
ERPは従業員1人当たりのコスト削減になる一方、初期費用は確実に高くなる。ソフトウェアだけでも優に1万ドル(約150万円)以上の費用がかかる。実装費用はコンサルタントによるプロジェクト管理やITスタッフの新規雇用も計算に入れると、標準的なスタンドアロン型アプリケーションの3倍以上になる場合もある。
メンテナンス費用も、ベンダーが自動アップデートを有料で提供している場合であれ自社のスタッフが行う場合であれかなりの額になる。オンプレミス型ERPの場合、セキュリティパッチも含めて、年額で製品価格の15〜25%にあたるメンテナンス料金が課される可能性もある。
対してSaaS型ERPの場合、初期費用はオンプレミス型に比べるとごく少額になる。ソフトウェアは月額料金制で購入されることが多く、通常はそこにメンテナンス料金も含まれているからだ。ただし、多くの調査が示しているように、7〜10年後にはSaaS型のコストがオンプレミス型の費用を上回る可能性がある。
カスタマイズ
これにも多額の費用がかかる。ほとんどの企業はそもそもERP本体のことしか考えていない。ERPはモジュールで提供されるため、ユーザーが必要なものを会社側が選び、組み合わせればいいと考えるからだ。ところが、既存のモジュールのままでうまくいくケースはまれだ。
ERPをオンプレミスでホスティングしている場合、カスタマイズの余地は増すが、そこに専属のIT人員を割くことが難しい場合もある。オンプレミス型のERPソフトウェアを所有している企業なら、場合によってはPaaSを利用すれば、カスタマイズを簡易化できる。
データ移行
これは大半の企業にとって最大の課題だ。データの移動や削除を行い、新しいフォーマットに合わせる作業には時間も費用もかかる。また、移行中や移行後のデータセキュリティには大きなリスクが伴う。
大規模な企業の場合は、どのデータをどのタイミングで移動させるべきかという決断が課題となる。大規模なERPの一斉移行は避けられる傾向にあり、企業は移すべきデータを選ぶようになっている。
現在、ERPの世界にはオンプレミス型からクラウド型に移行するトレンドが存在する。ほとんどの大企業が選ぶべき道はクラウド型ERPの導入だろう。ただし、データ移行やデータセキュリティ、メンテナンスを含む総所有コストといった、導入につきものの課題には特に注意を払うべきだ。
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