日清食品はなぜ「生成AIを20日で導入」できたか? セキュリティ視点で考える:ITmedia Security Week 2024冬 イベントレポート(2/2 ページ)
「DIGITIZE YOUR ARMS デジタルを武装せよ」を標語に掲げてデジタルトランスフォーメーションを推進する日清食品グループ。この裏にはIT活用を安全なものとするため、グループ全体で総力を挙げたセキュリティ対策があった。
経営トップの生成AI活用を契機に、全社ChatGPT環境構築を決断
日清食品グループは2023年から生成AIツール「ChatGPT」を導入し、全社的に活用している。成田氏によると、きっかけは、2023年4月3日の入社式だった。76歳になる日清食品ホールディングスの代表取締役社長(CEO)である安藤宏基氏がChatGPTを使って作成した激励メッセージを披露したのだ。
激励メッセージは「日清食品グループの入社式」「創業者精神」「プロ経営者」「コアスキル」といったキーワードをプロンプトに入力して生成、そこに安藤氏自身の言葉も含めて作成したものだったという。
そこには「このようなテクノロジーを活用することで短期間に多くの学びを得てほしい」という新卒社員への期待も込められていた。ここまで聞くと、安藤氏がすでに生成AIに習熟していたように思えるが、同氏がChatGPTに初めて触れたのは入社式の2営業日前だった。
「経営トップが最新テクノロジーを駆使する姿を目の当たりにして、これはできるかぎり早いタイミングで社内全体にChatGPT環境を採り入れ、『何ができるのか』『逆にどういった制約があるのか』を従業員が肌で理解できる状態に持っていく必要があると考えました。そこでその日のうちにIT部門に戻り、希望者を募ってChatGPTの社内展開プロジェクトを立ち上げました」(成田氏)
ChatGPT導入で重視したセキュリティとコンプライアンスの対策とは
ChatGPTの導入に向けて、最初に実施したのがリスクの整理だった。サイバーセキュリティ戦略室や法務部、内部監査部、リスクマネジメント室などと協議し、セキュリティとコンプライアンスの2点がリスクだと絞り込んだ。
セキュリティに関しては、個人情報や取引先情報などが外部に漏えいしないことが重要であるため、日清食品専用のChatGPT環境を構築することにした。
コンプライアンスの観点では、ChatGPTの出力結果を従業員が二次利用、三次利用する際にリスクが生じる。ここはリテラシーを高めることでしか回避できないと、ガイドラインを策定する一方で、社内説明会や社内報などのメディアも通じて繰り返し注意喚起を促すことを決めた。
ここで日清食品グループならではの特長といえるのが、ChatGPT環境自体に注意を促す仕組みが組みこまれたことである。環境を立ち上げると、まず安藤宏基氏のメッセージページが現れ、次にチキンラーメンのキャラクターが最低限気にしてほしいことをレクチャーする。また、生成AIの利用に当たって正しい記述はどれかというチェック欄も設けてあり、これらを経由して初めて利用開始できるという流れだ。これは、「ガイドラインや説明会だけでは忘れてしまう」という法務部長の意見を受けて採り入れられた。
全ての協議は短時間で実施され、2024年4月5日にプロジェクト発足後、同月25日には「NISSIN AI-Chat powered by GPT-4」として全社展開にこぎつけた。以降、社内ポータルや社内報、また朝礼などの機会を通じて大々的に告知され、また実際に活用されている。
同グループは2023年、グループITガバナンス部という組織を新しく設けた。これは、サイバーセキュリティ戦略室とITガバナンス室を束ねる組織で、サイバーセキュリティ対策を含め日清食品グループ全体におけるITガバナンスの強化を包括的に主導していく。成田氏はこれによって、これまでの取り組みをさらに促進させてグループ全体をけん引しながら、今まで以上にさまざまなサイバーセキュリティ対策を強化していく、と語っていた。
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