パナソニック コネクト、生成AI導入から1年 1回当たり20分削減する「製造業ならではの使い道」
パナソニック コネクトは、自社向けの生成AIアシスタントの活用により、1年間で労働時間を18.6万時間削減した。今後は、職種や権限に応じて回答する「個人特化AI」も開発するとしている。
パナソニック コネクトは2024年6月25日、OpenAIのLLM(大規模言語モデル)をベースに自社で開発したAIアシスタントサービス「ConnectAI」の2023年6月〜2024年5月の活用実績と今後の活用構想を発表した。
全社導入で18万6000時間削減 どんな業務に使っている?
同社は具体的にどのような業務にAIアシスタントを利用しているのだろうか。
パナソニック コネクトでは検索エンジン代わりとして単純な質問を投げかけたり、戦略策定の基礎データを作成させたり、素材や製造工程といった製造業ならではの質問を投げかけたりしているという。
生成AIの利用による時間の削減効果としては、1回当たり平均約20分の削減につながっているとしている。時間の削減効果が少ない用途としては検索エンジン代わりとしての利用、削減効果の高い用途としては戦略策定の基礎データの作成を挙げる。戦略策定や商品企画などでの利用では1時間以上の生産性向上につながったとしている。
パナソニック コネクトが掲げる生成AI導入の目標3点の達成結果は次の通りだ。
- 生成AIによる業務生産性向上: 1年間で全従業員で18万6000時間の労働時間を削減。アクセス回数(12カ月)139万6639回、直近3カ月の利用回数は前年同期間比で41%増
- 従業員のAIスキル向上: 検索エンジン代わりの用途から、戦略策定や商品企画などの1時間以上の生産性向上につながる利用が増え、製造業らしい活用(素材に関する質問、製造工程に関する質問など)も増加
- シャドーAI利用リスクの軽減: 16カ月間で情報漏えい、著作権侵害などの問題は発生せず
品質管理の課題解決をAIがサポート
パナソニック コネクトは2023年9月、Webサイトやニュースリリースなど自社固有の公開情報を基に回答する自社特化AIの試験運用を全従業員を対象に実施し、一定の精度で回答できることを確認した。
この結果を踏まえて、2024年4月から社外秘情報である品質管理630件(1万1743ページ)について回答するAIの活用を開始したことで、品質管理規定や過去の事例を基に製品設計時の品質に関する質問が可能になった。回答結果の真偽を従業員自身が確認できるように、回答の引用元を表示する機能も実装した。
これまで製造業における品質管理は、経験者のノウハウに依存するため情報が共有されにくく、事例の検索やその精査、判断に膨大な時間を要するといった課題があった。これらの課題を解決するため、ConnectAIは、社内の品質管理規定や過去に発生した品質問題を参照できるように開発された。ConnectAIに関する従業員の評価は5点満点中3.5点だという。
パナソニック コネクトは、今後数年の活用を通して経験者でも判断が難しい設計段階での問題や部品に起因する問題、製造方法や作業手順の問題についての原因特定を容易にし、手戻りを減らすことで、人手不足を補ってより短い時間で精度の高いものづくりにつなげたいとしている。
今後は、精度向上に向けて、生成AIに向けた自社データの整備を進めるとともに、データの対象範囲を拡大する。品質管理に加えて、人事の研修サポートや社内ITサポート、カスタマーセンターなどの社内サービスにも利用を広げる方針だ。
人事部門では、生成AIが従業員に適した研修を提案する研修特化AIの導入を進める。より広い業務領域で、数値に基づいた正確な回答が得られることで、生成AIの業務活用が進展すると同社はみている。さらにデータ整備が整えば、ユーザーの職種や権限に応じて回答する個人特化AIの導入も検討するとしている。
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