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「クラウドコスト増は必ずしも悪いことじゃない」 FinOps担当者がそう漏らす真意CIO Dive

企業におけるクラウドの導入が進む中、年々増加するコストに頭を抱え、費用対効果を心配する声も多い。そんな中、近年FinOpsの強化に取り組むペプシコでは、組織の状況を考慮した独自のアプローチが取られている。

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CIO Dive

 将来性のあるソリューションを求めて企業がクラウドサービスの導入を進めているが、多くの企業が従量課金モデルの弊害を感じている。ベンダーがサービスを導入するにつれてコストが膨らみ、単なるIT投資だけの問題ではなく、経営全体の問題になりつつある。

クラウドコストが膨れ上がっても問題ない理由

 スナックや飲料のメーカーであるPepsiCoは、数年前から年間およそ100のアプリケーションをクラウドに移行していると、2024年9月11日(現地時間)に開催されたForrester Researchのイベントでキンバリー・フロス氏(グローバルクラウドプラットフォーム有効化および移行担当ITシニアディレクター)は語った(注1)。

 フロス氏の業務にはこれらのアプリケーションで発生するコストの管理も含まれており、それはPepsiCoの移行戦略にとって不可欠なものだ。「クラウドのコストはどんどん膨れ上がっていくというイメージがあるが、多くの場合、それには本当に正当な理由がある」と、クラウドの財務管理も担当する同氏は述べる。

 「クラウドコストが急激に増加していると思われないように、前もって対処しなければならない。コストだけが増えているのではなく、われわれは必要なサービスを利用している。本当のビジネス価値を生み出しているので、それを明確にする必要がある」(フロス氏)

 同氏は、クラウドコストの最適化の流れに応じ、当時登場しつつあった技術から最大限の価値を引き出すためのフレームワークである「FinOps」のベストプラクティスを具体化する戦略を取った(注2)。重要なのは、社内のクラウド利用状況を掘り下げて全体像を把握した上で不必要なサービスを廃止し、最適化に適応した組織文化を作ることだった。

 「クラウドの請求書にはほんの小さな項目が多数並んでおり、一つ一つは1ペニー程度かもしれないが、項目数が多いと大きな金額になる」(フロス氏)

 PepsiCoのFinOpsチームは、これらの項目を直接使用、間接使用、共有使用の3つのカテゴリーに分類した。単一のソースに結び付いた直接使用のコストはタグ付けされ、アプリケーションチームの予算に直接割り当てられる。

 「アプリケーションチームがアプリケーションを構築し、アプリケーションチームが所有し、アプリケーションチームが費用を支払う。そして使い終わったらアプリケーションチーム自身で削除する」(フロス氏)

 同氏は間接使用と共有使用の管理はより流動的で複雑なものだと述べており、そのプロセスを大人数でディナーの勘定を分けるようなものだと例えた。

 「誰もが請求書を別々にしたいと考えており、自分が使用した分だけの請求書を欲しがる。全員でシェアした前菜の請求書は求められていない。そのため、全員が1口ずつ食べた前菜のコストをどのように分割するかを考えなければならなかった」(フロス氏)

FinOpsは社内への布教活動が全て

 クラウドの過剰支出に対する懸念が企業のリーダーを悩ませる一方で、クラウド技術への投資は増加し続けている(注3)。

 調査会社International Dataが2024年7月に発表した予測によると、ハイパースケーラーのプラットフォームに組み込まれた演算処理能力の高い生成AIアプリケーションは、2024年のクラウドサービスプロバイダーの売上を世界全体で8000億ドル以上に押し上げるという(注4)。同社は、クラウドへの支出は2028年まで毎年約20%増加し続けると予想している。

 Forrester Researchのトレイシー・ウー氏(主席アナリスト)は2024年9月のカンファレンスで「クラウドは企業にとって主要なインフラ戦略だ。経営陣もクラウド支出に注目し、精査している」と述べた。

 チームごとにコストをタグ付けし関連付けることは、組織全体に幅広く展開するプロセスの始まりに過ぎない。クラウドはITの土台であり、企業全体のアプリケーションやユーザーを伴うリソースだ。

 「FinOpsは、組織全体にその重要性を広めて理解を促す布教活動が全てであり、このことはFinOpsを運営する上でおそらく最も困難な側面だ。というのも、FinOpsを実践している人はITの仕事をするように訓練されているからだ。財務のバックグラウンドを持っているケースもあるかもしれないが、意見を調整する調停者や感情的なサポートを担うセラピストになるための訓練は受けていない」(ウー氏)

 また、技術自体も常に変化しており、固定化したガバナンスでは不十分だ。

 「クラウドでは常に新しいものが構築されるため、今全てを最適化して万全の状態だとしても、明日にはそれが通用しなくなるだろう。FinOpsの観点では、決して終わりはない。どれほど素晴らしい状態だと思っても、明日にはまだやるべきことがある」(フロス氏)

 クラウドは自らの成功の犠牲者になる可能性がある。固定費のかかるオンプレミスのデータセンターが、急激な変動が起こりやすいクラウドリソースに取って代わられる中、CIO(最高情報責任者)はクラウドの文化を前進させる必要がある。

 「クラウド環境は変化が激しい。クラウドプロバイダーが新しいサービスを提供し続けているという点だけでなく、利用状況やそれに関連する戦略も常に変化している」(ウー氏)

 この課題には、適切なツールだけでなく経営幹部レベルのITリーダーシップが必要だ。

 「CIOをこの議論に参加させることが大切だ。CIOが全体を把握し、IT化の取り組みをビジネス目標につなげる支援ができているかを確認する必要がある」(ウー氏)

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