NTTデータが取り組む「生成AIの活用とガバナンスの“両輪”」 ユーザー企業視点で考察:Weekly Memo(2/2 ページ)
生成AIの導入が進む中で、複数の生成AIが混在するようになりつつある。生成AIを活用するために、ユーザー企業はデータをどう管理すべきか。生成AI活用のためのマネジメントの在り方について、NTTデータの取り組みから考察する。
生成AIのハイブリッド利用ニーズに対応
「人材育成については、全世界の社員約20万人を対象として生成AIの人材育成フレームワークを整備している」
本橋氏は人材育成について、図6を示しながらこう話した。
図6の左がフレームワークで、一番下は全従業員を「リテラシー保持者」にすることを記しており、その上の3つの層は「生成AI活用実践人材」として、2024年度末で1万5000人の見込みを2026年度末には3万人に倍増させる計画だ。
この取り組みで注目したいのは、全従業員をリテラシー保持者にしようと動いていることだ。なぜ、全従業員を対象にする必要があるのか。生成AIの活用は企業にとってDX(デジタルトランスフォーメーション)の重要な取り組みであり、つまりビジネス変革が目的だからだ。これからのビジネス変革は、全従業員がDX人材にならなければ実現するのは難しい。
次に、顧客のビジネス変革への取り組みについて紹介する。
本橋氏は、次の3つの取り組みを挙げた(図7)。
- Co-Creation with Client: 先進企業との共創だ。同氏によると、既にグローバルで500件を超える実用化の事例があるという
- GenAI Ecosystem: 生成AIはすでにさまざまなベンダーから多様な種類の生成AIが提供されているので、それらをNTTデータのプラットフォームからも提供できるように連携を進め、当社のコンサルティングなどを通じて顧客にとって最適なソリューション提供するといった生成AIにおけるパートナーエコシステムの構築だ
- Client’s Own LLM: セキュアでデータも外部に出さない専用環境において、業務特化型の生成AIを提供するというものだ。「安心、安全」というのがキーワードだ
これら3つの取り組みをつなげると、「顧客との共創をベースにパートナーエコシステムを活用して最適なソリューションを提供するとともに、個別ニーズにもきめ細かく対応する」といったところだろうか。
本橋氏は上記3つの取り組みを挙げた上で、同社の生成AI活用戦略を語った。それによると、パブリックとプライベートの使い方があるクラウドと同様に、LLM(大規模言語モデル)による「オープンな生成AI」とSLM(小規模言語モデル)による「クローズドな生成AI」をフレキシブルにハイブリッド利用したいというニーズに応える構えだという(図8)。
最後に今回の話に関連して、企業の生成AI活用について筆者も考察を兼ねて問題提起したい。
筆者が訴えたいのは「AIマネジメントの必要性」だ。現在は多くの企業において、生成AIをどう活用するかという点に目が行っているが、さまざまな生成AIが社内に混在するようになり、やがてデータの管理や活用も含めて収拾がつかなくなる可能性が高いのではないか。
生成AIを活用するためにデータなどをどう適切に管理するかという意味でマネジメントが重要だ。なお、ここでは「マネジメント」という言葉を使っているが、本来マネジメントには「ガバナンス(G)」「リスク(R)」「コンプライアンス(C)」の要素(「GRC」と呼ばれる)が含まれる。
GRCを含めると非常に大きなテーマになるので、筆者の問題提起としては「社内に混在する生成AIをうまく活用するためにどうマネジメントしていけばよいか」ということで、AIマネジメントの必要性を問いたい。この解決策については、今回のNTTデータの顧客への取り組みの中にもヒントがあるように感じた。同社をはじめ、複数の生成AIを取り扱うITサービスベンダーにぜひ取材してみたい。
著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。
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