「AIエージェント」の進化形とは? 富士通のテクノロジー戦略から探る“企業を支えるAI戦略”:Weekly Memo(2/2 ページ)
富士通が、IT分野で今最もホットな話題である「AIエージェント」の進化に言及した。エンタープライズ(企業)を支えるAI戦略とは何か。早くも進化版について言及されるAIエージェントの今後と併せて考察する。
経営視点の取り組みが不可欠なAIエージェントの活用
岡本氏はマルチAIエージェントについて、「企業内での利用にとどまらず、クロスインダストリー領域へ適用するためにはどうすればよいか。産業競争力懇談会(COCN)に提案して採択され、『エンジニアリング革新』とのテーマで、サプライチェーンのAIエージェント同士でクロスインダストリーの最適化、調整、判断を行えるようにして、国際競争力およびレジリエンスを向上させる仕組みを政策提言しようと取り組んでいる」とも話した(図5)。
岡本氏の話からすると、個人を起点とするAIエージェントに対し、企業の組織や業界を超えて協調しながら動き回るのがマルチAIエージェントという捉え方もできそうだ。
AIエージェントの進化については、マハジャン氏も興味深い話をしていたので紹介しておこう。同氏は自身の話の最後に「AIテクノロジービジョン」として、「マルチベンダーによるAIエージェントが連動し協調するコンポーザブルアーキテクチャを提供する。これにより、企業が事業戦略に合わせてAIを選択しコントロールすることで、革新を起こせるようにする」と語った(図6)。
図6に描かれている内容の説明はあまりなかったが、ポイントは「マルチベンダーのAIエージェントが連動し協調する」というところだろう。岡本氏が説明していたマルチAIエージェントのベースとなる考え方でもあるようだ。
富士通はテクノロジーベンダーだが、ITサービスベンダーでもある。マハジャン氏の言う「コンポーザブルアーキテクチャ」の実現は、ITサービスベンダーとしても腕の見せ所だろう。
最後に、福田氏の話を紹介しておこう。同氏によると、富士通では2023年5月に全社で生成AIを活用する環境を整備し、およそ1年半が経過した現在では約3万5000人がアクティブユーザーとのことだ。AIエージェントについても積極的に活用し始めたところだという。そして、同氏はCDXOおよびCIOの立場からAIの活用について次のように語った。
「社内のITを統制する立場としては、経済安全保障やセキュリティ、さらにAI活用の主権という観点から、クラウド利用において特定のメガベンダーに依存すべきではないと考えている。その意味では、マルチベンダーでオープンな環境作りに共感する」
さらに、AIエージェントの活用についても次のような見解を示した。
「例えば、企業として顧客情報を保持しているお客さまが、今日セミナーに来られてアンケートのこの点にチェックを入れ、コメントを書いてお帰りになったとする。それを顧客情報と合わせて分析したAIエージェントが『このお客さまに対してはこういう資料を使ってこんな内容の提案をしてはどうか』と助言するようなケースは、これからどんどん出てくるだろう。だが、そうしたAIエージェントとの関係を人間側あるいは組織としてスムーズに受け止めて動けるかどうか。AIエージェントとの関係において人間側が意識や行動を変えていかなければ、うまく回らないのではないかと懸念している。その意味では、テクノロジーの進化だけでなく、チェンジマネジメントやコンサルティングも合わせた取り組みが必要になるのではないか」
全く同感だ。筆者もAIエージェントの活用は経営視点の取り組みが欠かせないと考える。AIエージェントは技術論もさることながら、人間とAIエージェントの関係性や組織の在り方をもっと議論すべきではないか。この点をユーザーにもベンダーにも訴求しておきたい。
著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功
フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。
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