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「VMwareの脱却、継続だけでは検討不足」 ITRアナリストが企業の現状と指針を示すVMware資産の「次」を考える イベントレポート

Broadcomによる買収によってVMwareのサービスモデルは大きく変更され、多くのユーザー企業に混乱が生じている。企業のITインフラを20年以上分析、支援してきたITRの入谷光浩氏がVMware資産の今後について見解を示した。

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 VMwareの製品は企業ITの仮想化基盤として広く利用されている。しかし、2023年のBroadcomによる買収以降、そのサービスモデルが大きく変更され、多くのユーザー企業に混乱が生じている。


ITR 入谷光浩氏

 そこで、「ITmediaエンタープライズ」はオンラインセミナー「VMware資産の『次』を考える」を主催した。基調講演にはIT調査会社アイ・ティ・アール(以下・ITR)のシニアアナリストの入谷光浩氏が登壇。企業のITインフラを20年以上分析、支援してきたベテランアナリストが、VMware資産の今後について見解を示した。

半数の企業が契約改定の影響を受ける理由

 Broadcomによる買収後、VMware製品に関する変更は多岐にわたっており、「最も大きな変更はライセンスの購入形態」と入谷氏は話す。

 「永久ライセンスが廃止され、全てサブスクリプションの料金体系に変わった。保守料金もサブスクリプションに含まれることになり、ユーザー企業は対応を迫られている」

 各コンポーネントの契約に従来のような柔軟性はなく、4つのスイートパッケージに統合された契約しかできないことも、割高になる原因の一因とみられている。また、新しい契約体系は顧客を3つのカテゴリーに分類し、それぞれに対して契約できるパッケージに制限が設けられている。「契約の変更でコストアップや運用保守への影響が出ており、頭を抱えているユーザー企業も多い」と入谷氏は言う。


ライセンスの変更点まとめ(出典:ITR 入谷氏の講演資料)

 そこでITRは、企業に対してITインフラの詳細な調査を2024年に実施した。まず、調査企業のうちハイパーバイザーとして「VMware ESXi」を使用しているユーザーは147社、全体の54%に上った。半数以上の企業がVMware製品を使っていることから、影響の大きさが分かる。

 「注目すべきは、VMwareユーザーのうち1000台以上の仮想サーバを運用している企業が4割以上も存在していたことだ。仮想化基盤は長い運用の歴史があり、オンプレミス中心に規模が大きくなっていることからも影響の大きさが増している」

まずは自社の状況把握を進めるべき

 この状況を踏まえ、入谷氏はVMwareの契約体系変更によって懸念される点と対応策を説明した。

 最大の懸念はコストの上昇であることは間違いないが、それに加えて、「今後のロードマップについての不安」「信頼性の低下」「これまで運用や保守を依頼してきた外部ベンダー、SIerがVMware製品から撤退する可能性」など、将来のITインフラ運用についても懸念が広がっているという。

 これらに対して企業はどういう対応をとるべきか。入谷氏は「焦ってすぐにアクションを起こそうとしてはいけない」と語った。

 「『コストが10倍以上になる』というようなメディアの記事を読んだ経営者が、IT部門に詰め寄ることがある。だが、そうしたことに惑わされず、まずは冷静に自社の状況を確認することを最優先に考えてほしい」

 まずは落ち着いてコスト上昇がどれぐらいかを試算してみることが大事だ。自社で無理ならベンダーや販売代理店の力を借りて、正確な情報を得る。それが最初にすべきことだ。その上で影響を受ける内容を、企業の幹部、経営者に説明し、共通の理解を得る必要がある。同時に、既存のVMware資産の棚卸しを実施して現状を可視化する。「それを踏まえて全社のインフラ戦略を検討し、ロードマップを再構築することが必要だ」と入谷氏は説明する。


企業の懸念と対策(出典:ITR 入谷氏の講演資料)

現VMwareユーザーの8割は、ITインフラの見直しを検討

 次に入谷氏は、「VMwareユーザーの147社がITインフラをどうする予定なのか」について調査結果を明らかにした。それによれば、全体の82%がVMware環境からの何らか移行方針を打ち出している。内訳を見ると仮想化マシンの保有台数が多い企業ほど移行を希望する割合は高くなっている。その背景には前述したVMwareの将来性に対する不安が存在すると思われる。

 企業が考える今後のITインフラの方向性について、入谷氏は、VMware継続か否か、クラウドかオンプレミスかという4つのパターンに分類した。

 そのうち最も多くの41%が、VMwareの基盤はそのままで、クラウドに移行することを考えている。次に多いのが、IaaSへ移行すると同時に、パイパーバイザーも変更するという完全な「脱VMware」(23%)だ。また、VMware問題を機にオンプレミスからクラウドへの移行を計画する企業が6割を超えていることも分かった。さらに、オンプレミスを継続するグループでは、VMware継続と移行がともに18%と同率だった。


ITインフラの方向性を4象限に分解(出典:ITR 入谷氏の講演資料)

 「今後、ITインフラがオンプレミスのままでは運用が苦しくなるためクラウドに移行したいと考える企業が多い。クラウドであれば、メガクラウドや国内のクラウド事業者が提供するVMwareのサービスも利用できる」(入谷氏)

移行シナリオを踏まえたITインフラ計画を立てるべき

 今回の問題を受けて、VMwareユーザー企業の選択は、「脱」と「継続」がおよそ五分五分に分かれた結果となった。ただし、これは調査時の結果なので、実際に検証した結果、別の選択肢を採用する企業が出てくる可能性もあると入谷氏は話す。いずれにしても、ITインフラの移行計画を実行に移すためには、「シナリオ」が必要だと同氏は言う。

 「オンプレミスでVMwareを使い続ける場合、ITインフラの運用は何も変えないことになる。またクラウド化では、運用を効率化するというシナリオが出てくる。一方の非VMware環境では、ロックインからの脱却、コスト削減、クラウドファーストの実行などのシナリオが考えられる。今後、自社のITをどうしていきたいかという戦略が大きく関わってくる」


移行形態ごとのメリット(出典:ITR 入谷氏の講演資料)

 移行のシナリオを考えるとき、「リスクと価値」のバランスを判断する必要があると、入谷氏は指摘する。例えば、最も多くのユーザーが移行先として支持した「VMware環境のクラウド移行」は、リスクが小さい分、得られる価値も限定的である。逆にクラウドネイティブの基盤を目指す場合、移行のリスクは高くなるが、得られる価値も大きく見込める。自社にとって最適な解を探るべきだと入谷氏は語った。


移行リスクに対する得られる価値(出典:ITR 入谷氏の講演資料)

ITインフラの将来像は自社のビジネスモデルで決める

 講演の後半で入谷氏は、VMwareに限らず、企業が将来のITインフラを検討する際に抑えておきたいポイントについて説明した。

 まず入谷氏は、「企業が今後約5年の中長期にITインフラをどうしていきたいか」について調査結果を示した。それによると、「単一のクラウドサービス優先」「マルチクラウド」「ハイブリッドクラウド」「オンプレミス」といった選択肢に対して、企業の回答は分散しており、多様化が進んでいることが分かる。また、金融ではオンプレミスが多く、情報通信ではマルチクラウドを選ぶ割合が高いなど、業種による傾向もみられる。

 「選択肢は多いが、世間のトレンドに流されず、自社のビジネスモデルからどんなインフラ戦略が重要かを踏まえて決めてほしい」と入谷氏は語る。

 ITRが20年以上実施している「IT投資動向調査」の結果からも、企業が考えるITインフラの方向性と注力分野が見えてくる。

 それによれば、2025年に投資可能性が高い分野として、クラウドサービスとクラウドネイティブの技術(IaaS、PaaS、DaaS、コンテナ、Kubernetesなど)、ハイブリッドクラウド、エッジコンピューティング、IoTに加えて、AIサービスに対する投資(GPUサーバなど)が挙げられている。

 優先して取り組みたい課題には、「運用コストの削減」「運用効率化」「自動化」「システム導入コストの削減」などが上位を占めている。これについて入谷氏は次のように語る。

 「ITインフラの多様化によって運用環境は複雑化し、従来の属人的な運用方法では限界を迎えている。そこで、インフラの運用にもAIを使う『AI Ops』が注目されている」

 AI Opsとは、システムの異常検知や予知の「観測」、インシデントの分析やリスク分析による対応の優先順位を決める「判断」、そして対応処理の自動化で問題を解決し、復旧を早める「実行」の3段階全てで、AIを活用した運用を進める取り組みを指す。

 「トラブル対応で最も難しいのが、対応策を決める段階だ。蓄積されたナレッジからAIが最適な対応を提案することで運用を効率化できる。今後AIの精度が上がることで運用支援の領域が拡大し、人手不足の解消にもつながると期待している」

これからのITインフラに求められる3つのテーマ

 入谷氏は最後に、これからのITインフラに求められる3つのテーマについて説明した。まず急務なのが、災害やサイバー攻撃など突然のインシデントが発生した際に、速やかに復旧できる「レジリエンス」だ。

 「サイバー攻撃や災害を防ぐことは困難だ。何か起こったときにダウンタイムや影響範囲を最小化できるITインフラを構築しなければいけない」

 「ITインフラのレジリエンスを強化するための3つの注力領域がある」と入谷氏は考える。1つ目は「高可用化」で、1つのインフラが破壊されたときに耐えられるよう、冗長化、分散化、ハイブリッド化が要件となる。2つ目は「影響の最小化」で、インシデント発生時に影響範囲を予測し、業務やサービスへの影響を小さくする。AIの活用も期待される部分だ。そして3つ目が、「迅速な復旧」だ。データの複製、DRの導入などで、ダウンタイムを減らすことで機会損失を最小限に抑える対策を施さなければいけない。

 次に、「これからはITインフラの領域にも『サステナビリティ』への対応が不可欠だ」と入谷氏は指摘する。

 「おそらく2027年から、東証プライム市場に上場している企業に対して、サステナビリティの報告義務が発生する可能性が高く、CO2排出量削減に向けてITの消費電力の削減が強く求められるようになってくる。省エネのハードウェアの調達や再生可能エネルギーを使用したデータセンターの活用、ITリソースの使用効率向上を目指した運用など、IT部門が果たすべき役割は多い」

 そして3つ目がAIだ。「当社の調査でも、ITインフラ戦略においてAIの重要度が高いと答えた企業は全体の85%に達している。既に企業では『Chat GPT』のようなAIを使ったサービスの利用が始まっており、それを支えるインフラが必要だ。AIに向けたハードウェアやデータ基盤など、自社で独自のAIを構築し、他社との差別化を図る意味でインフラの重要性は増している」と入谷氏は話す。

 レジリエンス、サステナビリティ、AIという3つのテーマを軸に、企業は自社に最適なITインフラ戦略を描かなければいけない。

 「今後数年以内に、ITインフラの担当者はAIインフラの課題に直面することは間違いない。VMwareの問題は、ITインフラ戦略を見直すよいきっかけになると考えている。この機会に将来的に必要なインフラの検討を開始してほしい」と入谷氏は語った。


将来を見越した基盤の選定が求められる(出典:ITR 入谷氏の講演資料)

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