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「AIに対する“過度な期待”が株価を下げる」 FRB副議長発言の真意とはCFO Dive

多くの企業がAIへの投資を強化する中、AIに対する過度な期待が“株価調整”を招くリスクがあるという説が浮上した。発言の真意は何か。また、FRBが考える生成AI活用のシナリオとは。

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CFO Dive

 近年、多くの企業がAIへの投資を強化している。しかし、想定していたほど大きな生産性向上は実現せず、AI投資に熱心な企業の“株価調整”を招くリスクがあると指摘する声もある。

「AIが株価を下落させる」発言の真意は?

 特にリスクが重視される金融業界では、AIを慎重に取り扱うべきとの論調が優勢だ。

 米国の連邦準備制度理事会(FRB)副議長のマイケル・バー氏は2025年2月18日(現地時間)、生成AIが期待されたほどの大幅な生産性向上につながらず、AIに多額を投資した企業の株価が下落する可能性があると警告した。

 同氏の発言の真意とは何か。また、FRBが考える生成AI活用の2つのシナリオとは。

 バー氏は「生成AIによって期待される価値創造は誇張されていた可能性がある。企業は段階的な生産性の向上ではなく画期的な変革を求めていたのかもしれない。現実が期待にそぐわなければ、この技術に多額を投じた企業の株価が“調整”される懸念がある」と語る。

 バー氏によると、生成AIを利用することで広範な生産性が向上することにより、次の2つのシナリオが考えられるという(注1)。

  1. 現在人間が担当している業務を段階的に補完していくシナリオ
  2. 人間の能力を拡張し、広範囲に及ぶ影響をもたらすような変革を引き起こすシナリオ

 Gartnerの調査によると、経済的、地政学的混乱が続く中でも、2025年はCFO(最高財務責任者)の77%が生成AIやその他の技術への投資を増やす予定だという(注2)。

 そのうち47%の財務リーダーは技術予算を10%以上増額する予定であり、3割は4〜9%の範囲で投資を拡大する計画を持っているとGartnerは発表している。

 同社のランディープ・ラティンドラン氏(財務部門リサーチバイスプレジデント)は声明の中で、「企業が技術投資を続けるのは、AIの進化によって新たなサービスの創出や意思決定の強化、生産性向上が期待されるためだ」と述べた。

生成AIは金融分野において「もろ刃の剣」

 しかし、バー氏は「金融分野において生成AIはもろ刃の剣だ。既存のシステムにおける回復力を高める一方で、脆弱(ぜいじゃく)性を増大させる可能性もある」と指摘する。

 「魅力的な取引が増加する中で、リスク管理者はこれまでにない知見を得られるようになる。悪意のある行為者が新たなツールを手に入れる一方で、サイバー攻撃を防ぐ側は守りをより固められる」(バー氏)

 同氏はニューヨークの外交問題評議会(the Council on Foreign Relations)の講演で、CFOをはじめとする官民両セクターの関係者はAIの持つ潜在的なリスクに先手を打つ必要があると述べた。

 「金融規制当局および企業やその他の団体のリスク管理責任者が進化する金融エコシステムへの対応を優先する限り、リスクバランスが大きく変化することはない。もちろん、その対応には困難が伴うだろう」(バー氏)

 金融の分野では、「地方銀行がチャットbotを使って地域の知見に基づいてカスタマイズされた金融に関するアドバイスを提供するなど、生成AIは段階的な利益をもたらし得る」とバー氏は話す。

 同氏によると、あらゆる規模の金融機関が生成AIをコンプライアンスや不正検知、リスク管理、文書分析に活用することでさらなる発展が見込まれるという。これは、冒頭で挙げた1つ目のシナリオに当たる。

 2つ目のシナリオでは、生成AIが金融業界を根本的に変革をもたらし、金融の在り方が根本的に変化する可能性がある。

 「完全にパーソナライズされたファイナンシャルプランニングを利用する個人と、革新的な商品やサービスを提供する企業とが摩擦のない、あるいは斬新な形態の金融仲介を通じてシームレスにつながるようになる」(バー氏)

 同氏によると、トレーダーやリスク管理者は、公開情報と非公開情報から得られる動的なリアルタイムデータを扱う生成AIの分析ツールを使用することになるという。

 リスクを抑えつつ生成AIの利点を活用するために、FRBと金融機関はAIに投資し、業務フローに組み込み、責任を持って使用する方法を従業員に教育する必要があるとバー氏は述べる。

 「金融規制当局は変化する状況に機敏かつ柔軟に対応すべきだ。生成AIシステムが破滅的な形で兵器化されるのを防ぐため、金融業界にとどまらず政府や民間企業、研究機関の協力が不可欠だ」(バー氏)

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