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トランプ関税がIT予算を圧迫? SAPのクラウド戦略とライセンスコストの行方CIO Dive

米国の関税政策がもたらす不確実性が経済に影響を与える中で、企業はERPのライセンスコストに対して慎重な姿勢を示している。そのような状況でSAPはどのような施策を打ち出すのか。

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CIO Dive

 2025年4月22日(現地時間、以下同)に開催された2025年の第1四半期の決算説明会において(注1)、SAPの幹部は「関税施策によって引き起こされた経済的な混乱の中、当社は顧客のコストを抑えるためにハイパースケーラーとの連携を活用している」と述べた。

 SAPのクリスチャン・クライン氏(CEO)は「私たちはハイパースケーラー4社と連携し、さらに自社の統合クラウドを保有している。私たちはハードウェアを直接購入しておらず、多くの場合ハイパースケーラー経由で利用している。そのため価格の安定性が確保されている」と述べ、複数年契約に基づくコストの安定性に言及した。

 しかし、米国の関税政策がもたらす不確実性が経済に影響を与える中で、企業はライセンスコストに対して慎重な姿勢を示している。このような状況下で、SAPの打ち出す施策は、ユーザー企業にどのような影響を与えるのか。

クラウド移行の方針を維持するSAP

 SAPのCFO(最高財務責任者)であるドミニク・サーサム氏によると、同社のクラウド型のエンタープライズソフトウェアの収益は前年比27%増の約50億ユーロ(57億ドル)に達し、ERPの製品群が同セグメントの85%を占めているという。

 関税による不確実性が高まりを見せているが、SAPは今後数年をかけてオンプレミスのERPのサポートを段階的に終了し(注2)、顧客にクラウドベースの製品への移行を促す方針を堅持している。

 2025年4月22日にクライン氏は次のように語った。

 「仮に古いERPを使用しているのであれば、今すぐ移行することに大きな価値がある。マクロ経済が悪化したとしても十分に納得できるビジネスの判断になるはずだ」

 SAPは2024年の初めに大規模なリストラ施策を開始し、クラウド事業の拡大とERPへの移行を推進するために20億ドル以上を投じた(注3)。

 2025年の初めにSAPは一部の顧客に対して、2033年まで業務継続サービスを延長することを約束するなど(注4)柔軟性を見せたものの、全体的なスケジュールの変更はしなかった。従来型のシステムである「SAP ERP Central Component」(ECC)の保守サポートは2027年に終了する予定だ。

 サプライチェーンの混乱に対する懸念やインフレの悪化、トランプ大統領による制裁を目的とする関税が引き金となった世界的な貿易戦争などが(注5)、IT分野の予算に既に影響を及ぼしている。

 2025年4月の初めに関税措置が発表された直後、アナリストらは「CIO Dive」に対し(注6)、「米国の貿易政策の不確実性が続くようであれば、高額な費用がかかるERPの近代化を検討している企業はその計画を一時停止する可能性がある」と述べた。

 クライン氏は、直ちに価値を見いだせないのであれば、数百万ドル規模の費用が発生する近代化プロジェクトに着手するのは企業にとって難しい時期かもしれないと認めた。

 SAPは、クラウドベースのERP製品群に組み込まれたリアルタイムの貿易管理や財務モデリング、部門横断的な予算編成機能が逆風を乗り越える助けとなり、短期的かつ具体的な成果をもたらすことを期待している。

 クライン氏によると、SAPは移行パッケージである「RISE with SAP」を更新し、業務改革管理ツールキットを追加して、顧客が既存の契約内でプライベートクラウドからパブリッククラウドに移行しやすい形にしたという。

 2025年4月22日にSAPは、RISE with SAPのプログラムを通じて「SAP S/4HANA」のプライベートクラウド向けバンドルを拡充し(注7)、ローコード開発ツールキット「SAP Build」をプライベートクラウドおよびパブリッククラウドの製品群に追加した(注8)。

 「私たちはRISE with SAPのプログラムによって提供される内容をより充実したパッケージにアップデートしている。外部要因として存在する不確実性そのものは変えられないが、それらの課題に対処できるように顧客を支援することは可能だ」(クライン氏)

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