“脱VDI”の切り札、「データレスクライアント」が変える組織の働き方と生産性:ITエキスパート座談会
コロナ禍を機に導入したVDIが、ライセンス費用の高騰や運用の複雑化といった課題を生んでいる。“脱VDI”の切り札として期待を集めるのが「データレスクライアント」だ。組織の働き方と生産性を向上させる特徴や導入効果について、5社の専門家が議論する。
コロナ禍から5年が経過し、多くの企業では急ごしらえで導入したVDI(仮想デスクトップインフラ)環境の見直しが進んでいる。その背景には、VMwareのライセンス費用の高騰や運用の複雑さがある。
VDIに代わる選択肢としてニーズが高まっているのが「データレスクライアント」だ。端末にデータを残さず高いセキュリティを確保して、PCの処理能力を最大限に生かす仕組みを持つ。
本稿はデータレスクライアントソリューションを提供する5社が集い、ユーザー企業の課題とその解決策について議論を交わした様子をお伝えする。
(左から)座談会に参加した5社
ZenmuTech 阿部泰久氏(代表取締役社長)
横河レンタ・リース 田中信行氏(事業統括本部ITソリューション事業本部ソフトウェア&サービス部長)
アップデータ 小林秀和氏(営業部 部長)
ソリトンシステムズ 光井一輝氏(プロダクト推進部 担当部長)
e-Janネットワークス 坂本史郎氏(代表取締役CEO)
テレワークの拡大で急増したVDI導入、また新たな課題が
――テレワークの普及に伴いVDIの導入が急速に進みましたが、運用現場ではどのような課題が見えているでしょうか。
坂本(e-Janネットワークス): 根本的な課題として、VDIは通信環境に左右されます。特に海外出張の際は顕著で、タイピングのレスポンスが0.5秒遅れるだけでもユーザーにとっては相当なストレスです。それが業務に及ぼす影響は大きいと言えます。
小林(アップデータ): レスポンスの遅延は生産性に直結する問題です。私たちのところにも「始業時間にアクセスが集中して毎朝“渋滞”が起きている」という声が寄せられています。「9時からのWeb会議に備えて、8時半にはVDIにログインしてスタンバイしている」とおっしゃる企業もいて、利便性という点は改善の余地があると思います。
阿部(ZenmuTech): 以前は一部の従業員だけが使っていたVDIを、コロナ禍を機に全社展開した企業が多く、結果的にサーバのキャパシティーが追い付かず、処理が遅いまま仕事をせざるを得ないという話をよく聞きます。せっかくのテレワークが、逆に業務の足かせになってしまっているケースがあります。
光井(ソリトンシステムズ): 最近では海外メーカーのライセンス価格の高騰もあります。加えて、VDIの運用はどうしても複雑になりがちで、特に中堅・中小企業は「そもそも運用できるIT人材が足りない」という切実な悩みがあります。
田中(横河レンタ・リース): 企業規模を問わず、IT人材の不足はどの企業も悩まれていますよね。私たちが感じるのは若い世代の価値観の変化です。最近の求職者は面接で必ずと言っていいほど「テレワークは可能ですか」と聞きます。彼らにとって、テレワークはもはや「あって当然」の働き方です。
一方、VDIは課題が多く、リモートデスクトップのように2台体制を前提とする構成はコストも管理負荷も倍増してしまいます。現場はその運用が大きな負担になっているという声をよく聞きます。そのため、1台のPCで業務が完結する仕組みを求める声は年々高まっていると感じますね。
FATクライアントの処理力を最大限に生かすデータレスクライアントの魅力
――そうした課題を背景に注目が集まっている「データレスクライアント」ですが、どのような特徴や導入メリットがありますか。
光井: データレスクライアントは、端末側で業務アプリを実行して処理性能を最大限に活用しながらも、データは一切端末に残さない制御をソフトウェアで実現する、いわばクライアント主導のアプローチです。「データレス」といっても、VDIのような画面転送型の仕組みではない点はよく誤解されがちです。
小林: よく誤解される点ですよね。端末にデータを一切残さないという構造は、情報漏えいリスクの観点でも非常に効果的です。端末の紛失や盗難はもちろん、内部不正に対する抑止にもなりますから。
坂本: データレスクライアントを使用して便利と感じるのは、PCが特定のユーザーにひも付かなくなるという点です。FATクライアントはユーザーごとに環境設定があり、データがローカルに残るので端末の共有は困難です。データレスクライアントならカーシェアのように端末を共用でき、自分の環境にすぐアクセスできるのでとても便利です。また、サインアウト時にローカルのデータは消去されるので、ローカルにデータを置かない仕事の仕方が習慣になります。毎朝PCを立ち上げるたびに"整った新しいデスク"に向かうような感覚で気持ち良く業務を始められますよ。
田中: 2020年のコロナ禍において、当社の新入社員はテレワークでの新人研修が必須でした。現在も社員が発熱、もしくは家族にその兆候がある場合は出社せずにテレワークで業務をしていますが、VDIは通信負荷が高いためWeb会議のハードルも高くなってしまいます。場合によってはVDIを操作する端末とWeb会議用の端末を分けたり、Web会議のアプリをVDIのゲストOSにインストールせず、FATクライアントに直接インストールしたりして対応しています。
坂本: VDIと異なりデータレスクライアントはローカルのリソースを使用するので、端末の搭載機能はもちろん、外部接続のマイクスピーカーやカメラ、マルチディスプレイを簡単に使える点も便利です。マイクスピーカーやカメラの使用といえばWeb会議ですが、ローカルのアプリを使いローカルブレイクアウト接続するので快適にWeb会議ができます。
光井: 最近はAIの演算処理もできる高性能なCPUを搭載したPCが増えています。従来のVDIだとせっかくの処理能力を生かし切れない場合がありますが、データレスクライアントならその性能をフルに引き出せます。これは導入が今後広がる大きな理由になるでしょう。
小林: コストの面でも優れていると感じます。導入時の初期費用だけでなく、運用全体を見てコスト効率が良い点もポイントです。特にヘルプデスクの負担が軽減されるのは、現場としても助かるでしょう。
阿部: セキュリティと利便性のバランスの良さを多くの企業が評価していると思います。VDIレベルのセキュリティを保ちつつ、VDIでは実現しにくかった快適な利用が可能です。システム構成だけでなく運用サポートコストも含めると、情報システム部門にとっても有効なソリューションといえるでしょう。
法改正が後押し、着実な成長を遂げるデータレスクライアント市場
――データレスクライアント市場も着実に成長している印象です。
田中: コロナ禍で急激に需要が跳ね上がったというより、むしろその前から安定して成長してきた印象がありますね。緩やかではあるけれど、右肩上がりに着実に市場が広がってきたと感じています。
坂本: 当時は企業側もまずは手っ取り早く既存のFATクライアントをそのまま持ち帰る、という選択をしていました。でも最近になって、そうした初期対応に限界を感じた企業から「やっぱりちゃんとした仕組みが必要だ」という問い合わせが増えています。理解が進んだ企業は少人数で試験導入した後にすぐ全社展開するなど、導入スピードがかなり速いですね。
小林: 最近は法制度の改正も後押しになっていると感じます。2025年4月に育児・介護休業法が改正されて、テレワーク対応が企業の努力義務となり、ISMS(情報セキュリティマネジメントシステム)の新規格への移行期限は2025年10月31日までとされています。「持ち出しPCへの対策が甘い」と監査で指摘された、という話をユーザー企業から聞くことも増えてきました。
光井: 当社が100人以上の情報システム担当者を対象にアンケートをしたところ、VDIやDaaS(Desktop as a Service)を導入済みの企業は、データレスクライアントの認知度がかなり高いという結果が出ました。一方、VPNだけでテレワークを実現している企業は、そもそもこの分野の情報にあまり触れておらず、認知に大きなギャップがありました。市場をさらに広げていくためには、このギャップをどう埋めていくかが重要です。
阿部: 「認知の格差」は業界全体の課題です。最近はCASB、EDRなど、セキュリティ関連のソリューションが増えて、ユーザーは「どれが何に効くのか分からない」という状態になっています。その中でデータレスクライアントがどういう立ち位置なのか、どんな課題に対して有効なのか、ベンダーがもっと整理して分かりやすく伝える努力が必要ですよね。
田中: 本当にその通りです。実は「データレスクライアント」という技術自体を知らない企業は多いのが実情です。課題は感じていても具体的な名前や手段が分からず、「VDI 高い」とか「テレワーク 重い 遅い」というキーワードで検索して、結果的に私たちのソリューションにたどり着くという企業はまだまだ多いと思います。
多様なニーズに応えるデータレスクライアント最前線
――そうした現場の声に応える形で、皆さんはさまざまなソリューションを展開されていますよね。
田中: 横河レンタ・リースの「Flex work place Passage、Passage Drive」は、官公庁や金融業界によくあるネットワーク分離の環境から一般的な境界型ネットワーク、ゼロトラストを意識したブレークアウト環境など、幅広いオンプレミス、クラウドストレージの多様な選択肢からPC内のユーザーデータを安全な場所に強制的に移行する仕組みを採用しています。
製品を導入していただいている自治体からは、複雑なアプリやネットワーク構成にもかかわらず、セキュリティ環境を強化して、かつ運用負荷を大幅に軽減できたと高い評価を頂いています。
また、最近のクラウドストレージは保存データの分析機能なども備えています。生成AIやAI PCのアウトプットがクラウドストレージに保存されると、利用傾向やデータの種類、プロンプトの内容とアウトプットなど、情報システム部門や経営企画部門がAI活用状況を可視化することも容易になっていくでしょう。
阿部: 当社は「ZENMU Virtual Drive Enterprise Edition」を提供しており、秘密分散技術を使いユーザーデータを無意味化して分割し、PCとクラウドに分散保管する仕組みを採用しています。クラウドには1KBという小さなデータ片のみ保管するので、ネットワーク依存度は極めて低くなります。PCにはデータ片が欠けた無意味なデータしかないので、仮にPCを紛失してもデータ漏えいリスクを大幅に抑えられます。また、紛失に気付いた時点でクラウド上のデータ片をロックすれば、端末を不正に開かれても、分散したデータ片がそろわないためデータは復元不可となり、データは漏えいしません。ユーザー企業からは「端末をなくしても安心できる」との声を多く頂いています。
坂本: e-Janネットワークスの「CACHATTO One セキュアコンテナ」は、データレスクライアント機能に加えて通信制御を一体で提供する点が特徴です。VPN経由の通信はランサムウェアなどの侵入リスクが気になりますが、CACHATTO One セキュアコンテナならネットワーク分離を前提に安全かつ快適な環境を構築できます。学校関係のユーザーからは、1台のPCでセキュリティ対策と利便性を両立させられる点が非常に評価されています。
小林: アップデータはお客さまが利用中のクラウドストレージと連携し、特定フォルダのデータを自動でクラウドに転送する「Shadow Desktop」を提供しています。それ以外のローカル領域への書き込みは禁止しているので、漏えいリスクがぐっと減ります。設定の自由度が高く、企業ごとのセキュリティ要件に柔軟に対応できる点も好評です。今秋には閉域環境でも使えるバージョンもリリース予定です。
光井: 当社の「Soliton SecureAccess」はWebブラウザ型、コンテナ型、リモートデスクトップ型の3方式をそろえ、企業の環境に合わせて柔軟に選んでいただけます。認証技術にも強みを持ち、ユーザーやデバイスの正当性を厳格にチェックするセキュリティ機能を搭載しています。セキュリティ分野が得意な当社だからこそ、アクセス制御から端末制御までワンストップで提供できるのが大きな強みですね。
――各社の強みを生かして、製品やサービスを展開されていることがよく分かりました。最後に、読者の皆さんに向けたメッセージをお聞かせください。
光井: 多くの企業がVDIの課題に直面しているタイミングですから、現実的で導入しやすい解決策を真剣に検討してほしいですね。特にIT人材が不足しがちな企業に、シンプルで管理がしやすいデータレスクライアントを知っていただきたいです。
坂本: データレスクライアントの最大の魅力は、導入や運用が簡単で、実際に使ったときの快適さにあります。VDIから移行したユーザー企業からは「こんなに軽快なのか」と驚きの声をたくさん頂いているので、ぜひ体験してもらいたいですね。
小林: セキュリティ対策の最適解は企業で違うので、自社の業務スタイルに合った仕組みを選ぶことが大切です。まずは無料トライアルなどを活用して、VDIとの違いを実感してみることから始めてみてはいかがでしょうか。
阿部: まずは触れてみていただくと、今回お話ししたメリットを実感していただけると思います。集中管理やセキュリティ対策を重視するあまり、ユーザーの利便性が犠牲になっているケースは意外とあります。生産性や使いやすさ、コストのバランスを考えたときに、データレスクライアントは非常に有効な選択肢になるでしょう。
田中: かつては境界型ネットワークがITインフラの中心で、その中にいるPCが安全でしたが、今はPCをエンドポイントと呼ぶくらいPCの安全性と性能がより重要になっています。端末の性能がますます向上するこれからの時代に、データレスクライアントが中核的な役割を担う存在になると確信しています。お気軽にご相談ください。
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提供:アップデータ株式会社、e-Janネットワークス株式会社、株式会社ZenmuTech、株式会社ソリトンシステムズ、横河レンタ・リース株式会社
アイティメディア営業企画/制作:ITmedia エンタープライズ編集部/掲載内容有効期限:2025年9月4日















