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生成AI活用、75%が社内向け ただし大手銀行はココが違うCIO Dive

Lloyds Banking Group、NatWest、Truistの3つの銀行は、社内の生産性向上で得た成果を基盤として、より野心的なユースケースの拡大に取り組んでいる。

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 銀行業界は、ビジネスにおける生成AIの可能性をいち早く認識すると同時に、無謀な導入に伴う危険性も理解していた。リスク管理に長けたこの業界の大手金融機関は、慎重ながらも着実な姿勢で試験導入から本格運用へと移行していった。

大手銀行で進むAI活用 さまざまな業務に適用

 コンサルティングサービスを提供するEvident Insightsによると、過去1年間でAIの導入が大きく進んでいる。同社が北米や欧州、アジアの主要50銀行を追跡したところ、2025年6月2日週(現地時間、以下同)の時点でこれらの銀行が発表したAIの導入事例は266件だった。同社でインテリジェンスを担当するコリン・ギルバート氏(バイスプレジデント)は、同年6月10日に開催されたバーチャルラウンドテーブルで「これは同年2月の167件から大幅に増加している」と述べた(注1)。

 ギルバート氏は「約75%は依然として社内および従業員向けのユースケースだ」と述べ、生成AIと従来の予測型AIのユースケースの比率はおよそ半々に分かれていると付け加えた。

 コンサルティングファームのEYのパートナーであり、米国地域の金融サービスコンサルティング部門のAIリーダーでもあるムディット・グプタ氏は、パネルディスカッションで「銀行が日々の業務にAIを統合し、モデルが成熟した結果、活用の中心は顧客向け機能を備えた生成AIへと移りつつある」と述べた。

 「生産性向上から始める傾向があるのはリスクが低いからだ。導入をさらに進めて変革を実現できるように、まずは成果を積み上げている」(グプタ氏)

 世界中でサービスを提供する3つの銀行のテクノロジー担当幹部は、グプタ氏の見解にそれぞれ独自の解釈を加えている。

 Lloyds Banking GroupでAIおよび高度分析を担当するロヒット・ダワン氏(ディレクター)は「私たちは指数的な成果を生み出すために段階的なステップを踏んでいる」と述べた。同銀行は、2025年の初めに「Microsoft Azure」をベースとするOracleのデータベースシステムとカスタマークラウドデータシステムである「Oracle Exadata」を導入してクラウドベースのデータ戦略を強化した後(注2)、個別のユースケースを超えた取り組みに向けてAI関連の活動を統合しつつある。

 「AIを使ってプロセスに手を加えたり最適化したりするという考え方から、AIを前提にプロセスそのものを根本的に再構築するという考え方へと移行するのは大きな発想の転換だ」(ダワン氏)

 銀行業界における生成AIのユースケースは幅広い(注3)。大量の顧客データやコンプライアンスデータの管理から、レガシーアプリケーションのリファクタリング支援まで、多岐にわたる分野で能力を発揮している。

 コンサルティングファームのKPMGが2025年4月に発表した報告書によると(注4)、銀行の幹部たちは、生成AIが2025年末までに日常業務の最大40%を担うと予測している。同社が調査した米国の銀行幹部200人のうち、およそ60%が「この技術は自社の長期的なイノベーション計画に不可欠である」と回答した。

NatWest、TruistのAI活用

 NatWest Groupのザカリー・アンダーソン氏(チーフ・データ&アナリティクス・オフィサー)は、パネルディスカッションで次のように語った。

 「当行はAIの導入を段階的に進め、ユースケースごとに投資対効果を測定してきた。しかし、過去8カ月で大きな転換を遂げた。特に顧客体験に焦点を当てた部分を再構築するために、フロントからバックエンドまでを完全に見直す取り組みに着手している」

 Bank of Americaの従業員向けAIアシスタント「Erica」や(注5)、Citiの文書用インテリジェンス「Stylus」、バーチャルアシスタント「Assist」などAIアシスタントは一般的になりつつあるが(注6)、導入が進むにつれてこの技術が能力を発揮する分野の幅も広がっている。2023年9月には、JPMorgan Chaseが14万人の従業員に自社のAIアシスタント「LLM Suite」を提供すると発表した。

 Accentureのマイケル・アボット氏(グローバルバンキングリード兼シニアマネージングディレクター)は、AI分野で自立型エージェントツールが主流になり始めた2025年1月に、『CIO Dive』の取材で「生成AIは、銀行内の仕事のあらゆる部分に影響を及ぼすことになる」と述べた(注7)(注8)。

 アンダーソン氏によると、NatWestは2つのルートで導入を進めているという。

 「当行には、最も大きくて困難なユースケースに取り組んでいる中核のデータサイエンティストやデータエンジニアのチームがある。現在そのチームでは、実現可能性の限界にあるような課題に取り組んでいる。なぜならば、基盤モデルの進化がとても速く、実現できるか分からなかったものが、プロジェクトが終わる頃には実現可能なものになっているからだ」

 同時に、アンダーソン氏は「AIを非技術系の部門にも積極的に展開している」と述べた。開発者にツールを提供するだけでなく、NatWestは社内のAIツールをビジネスユーザーや銀行内の多くの利用者にも展開している。

 「現在のモデルやエージェントで実現可能な物事の限界は広がっており、どこまで適用範囲が拡大するか予測しにくい。できると考えていたことができなかったり、予想していないような使い道を見つけたりする。当行の7万人の従業員全員がその限界に挑戦しており、私たちはかつてないほど速いペースでAI活用の最前線を開拓している」(アンダーソン氏)

 Truistは、短期的な成果が得られるユースケースから、銀行業務のより上流に位置するユースケースへと移行している。同行でアナリティクスおよび生成AIや機械学習(ML)を含めたAIの部門の責任者を務めるチャンドラ・カピレッディ氏は「知識の抽出が最も人気のあるユースケースだ。これはリスクが低く、データは既に存在しており、短時間で答えを得られるためリターンが大きい」と述べた。

 AIの活用事例が複雑化しコストも増す中で、明確な成果はビジネスユーザーに価値を伝え、取り組みの勢いを維持する助けになる。また、初期の成功は、IT幹部が技術に関して必要な実験的アプローチを行うための社内的な信頼や支持を得る材料にもなる。

 「完璧を目指すと空回りする。導入の初期段階では、それでも一定の成果は出るだろう。しかし、そこに資金を投じ始める段階になると、ビジネスの関係者たちに『確実にインパクトがある』ということを理解させる必要があるのだ」(カピレッディ氏)

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