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富士通のAIエージェント戦略「3本の柱」 “業務特化型エージェント”は現場の救いになるかFujitsu Uvance update 2025

富士通は「Fujitsu Uvance」の進捗を報告するイベントを開催し、同社のAIエージェント戦略を発表した。さまざまな業界に入り込む同社のエージェントは現場の業務を変革し得るのだろうか。

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 富士通は2025年7月16日、同社の事業ブランド「Fujitsu Uvance」のイベント「Fujitsu Uvance update 2025」を開催し、次の成長の核となる「AIエージェント戦略」を発表した。

 2025年度に売上7000億円を目指すUvance事業の好調を背景に、富士通は企業のAI活用を「試用段階」から「成果創出」のフェーズへと引き上げることを目指す。


富士通 執行役員副社長 COO 高橋美波氏(出典:筆者撮影)

Uvance事業の成長とAIへの期待

 「Uvance」(ユーバンス)は、「Universal」(普遍的な)と「Advance」(前進させる)を組み合わせた富士通の造語であり、同社のDX(デジタルトランスフォーメーション)事業の中核をなすブランドだ。「データとAIを軸に、サステナブルな世界の実現に向けて社会課題や事業課題を解決すること」をミッションに掲げる。

 Uvance事業における2024年度の売り上げは目標の4500億円を上回る4828億円を達成。2025年度には7000億円という高い目標を掲げており、その成長の重要なドライバーとしてAIエージェントを位置付けている。

 同社の調査によれば、AIを導入した企業の6割が「生産性が1割以上向上した」という。富士通の執行役員副社長 COOの高橋美波氏は「これまで人が担っていた判断プロセスをAIエージェントが代替し、(企業の)意思決定のスピードと精度を上げていく」と抱負を述べた。

富士通のAIエージェント戦略における「3つの柱」

 その変革を実現するための核となるのが、同社のAIエージェント戦略「3つの柱」だ。

第1の柱:業務特化型エージェント

 第1の柱は、富士通が長年培ってきた製造や流通、金融、医療といった領域の深いドメイン知識をAIに組み込む「業務特化型エージェント」だ。

 イベントでは、在庫の欠品リスクをテーマにしたデモンストレーションが披露された。在庫、生産、販売などを担当する複数の業務特化型エージェントが自律的に協働し、これまで人手で数日かかっていた調整を、わずか数十秒で完結させて最適な解決策を提案する。

 このソリューションは世界経済フォーラムの「AI Governance Alliance」によって、ビジネスを変革する先進的なAIソリューションとして選定された。これは、世界各国のAI業界における独立性を保ったリーダーたちが選ぶグローバルなコミュニティー「MINDS」において、世界で18件の先進事例のうちの1件として選ばれたものであり、富士通の取り組みがグローバルレベルで高く評価されたことを意味する。

第2の柱:マルチエージェント化とマルチベンダー化

 第2の柱は、自社内にとどまらず、他社のエージェントとも連携するオープンな「マルチエージェント化」「マルチベンダー化」だ。

 富士通の強みはハイパースケーラーにはないドメイン知識と、全体を俯瞰(ふかん)してAIを構成する「オーケストレーション能力」にあると高橋氏は分析する。この能力を活かし、企業や業界の垣根を越えた課題解決を目指す。

 特に3S(SAP、Salesforce、ServiceNow)やMicrosoftのAIエージェントとの連携を模索する。「Microsoft 365 Copilot」とSalesforceの「Agentforce」が連携し、クライアントとの会議の内容を基にエージェントが自動でCRMを操作するといった例が示された。

第3の柱:信頼性とガバナンス

 そして第3の柱が、AIの「信頼性とガバナンス」の確保だ。欧州連合(EU)の「EU AI法」(EU Artificial Intelligence Act)など各国の規制に準拠するだけでなく、プロンプトインジェクションのようなセキュリティリスク対策や、AI倫理に基づいた安全なAIの提供を目指す。

 高橋氏はAIの安全な利用を支援するために設計された「ガーディアン・エージェント」という概念に触れ、「(富士通)研究所を中心に、ガーディアンエージェントに関連した技術をどんどん世に出すことになる」と述べた。

AIエージェントは“現場”を救うか

 富士通が提唱するAIエージェント戦略が実現すれば、製造や流通、医療といった人手不足に悩む現場のオペレーションを根底から変える存在となり得る。

 ただ、その実現への道のりは平坦ではない。最大の課題は、マルチエージェントの世界でいかに「信頼」の基盤を築くかだ。企業秘密や機密データを扱うエージェントが、企業の壁を越えて連携するには、堅牢(けんろう)なセキュリティとガバナンスの仕組みが不可欠となる。また、強力なプラットフォームを持つ米国のハイパースケーラーとの協業と競争の中で、富士通がいかに独自の価値を発揮し続けるかも問われるだろう。

 この動きが今後、他社を巻き込みながら、日本の産業界全体の生産性向上や国際競争力強化にどう貢献するのか、継続して注視する必要がある。

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