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AWSは「AIエージェント・オーケストレーションプラットフォーム」に進出するかWeely Memo(2/2 ページ)

「AIエージェント・オーケストレーションプラットフォーム」を巡る主導権争いが、今後活発になってきそうな中で、この分野に本格参入を表明していないAWSはどう動くのか。クラウドインフラで最大の影響力を持つ同社の動向を探る。

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AWSならではのユニークな立ち位置が奏功するか

 ただ、大きな発表として挙げた2つのサービスも、基本的にAIエージェントおよびエージェント型AIの開発環境に向けたものだ。その中で、AIエージェントのオーケストレーションにつながるサービスが1つあったので、紹介しておこう。

 Amazon Bedrock AgentCoreの要素の1つで、「Amazon Bedrock AgentCore Gateway」と呼ぶサービスだ。これにより、MCP(Model Context Protocol)に非対応の既存サービスを、エージェントからMCPによって呼び出せるようになるという。小林氏によると、「開発者が大規模なツールやエージェントの構築、デプロイ、発見、持続することを安全かつ容易にするための仕組み」とのことだ。(図3)


図3 Amazon Bedrock AgentCore Gatewayの概要(出典:AWSジャパンの会見資料)

 MCPはAIエージェントをさまざまなツールとつないで活用できるようにするプロトコルで、このMCPを補完する形でAIエージェント同士をつなぐ「Agent-to-Agent」(以下、A2A)とともに、AIエージェントをオーケストレーションさせるための標準技術として捉えられている。

 小林氏は説明の最後に、「AWSはAIエージェントを開発、運用するための最適な『場』を提供する」とし、具体的に「AIとエージェントアプリケーションのためのソフトウェア、それを構築するためのAmazon Bedrockを中心としたマネージドサービス、およびAIアプリケーションを支えるインフラスタックを提供する」と説明した。(図4)


図4 AWSはAIエージェントを開発・運用するための最適な「場」を提供(出典:AWSジャパンの会見資料)

 この発言からも、AWSのAIエージェントおよびエージェント型AIに関する事業は、開発環境の整備に注力していることが読み取れる。

 ちなみに、AIエージェントとエージェント型AIの違いについては、Gartnerの見解によると「AIエージェントはエージェント型AIの1つであり、エージェント型AIはAIエージェントよりも包括的かつ進化的な概念」とのこと。その意味からすると、AIエージェントのオーケストレーションはエージェント型AIの領域の話とも解釈できよう。

 上記のように、AIエージェントについては開発環境の整備に注力しているように見えるAWSだが、自らAIエージェント・オーケストレーションプラットフォームを手掛けるつもりはないのか。会見の質疑応答で聞いたところ、小林氏は次のように答えた。

 「手掛けないわけではない。さまざまなAIエージェントをオーケストレーションするプラットフォームをさまざまなベンダーが提供し始めているのは、ユーザーニーズから見ても当然の動きだと捉えている。AWSとしては、そうしたプラットフォームをAWSのクラウドインフラで利用してほしいが、マルチクラウドでの利用になるケースもあるだろう。そうした状況を踏まえて、この分野の標準技術となり得るMCPに対応し、A2Aについてもサポートする予定だ。AWSとしては今後もこの分野においてオープンなスタンスで臨んでいく姿勢だ」

 「手掛けないわけではない」が、積極的に取り組む姿勢は今のところないようだ。その理由は、小林氏の上記の発言から読み取れる。というのは、AWSとしてはベンダー各社が提供するAIエージェント・オーケストレーションプラットフォームを同社のクラウドインフラ上で利用してもらうことが最優先だからだ。そのため、オーケストレーションプラットフォームを提供するベンダーとの直接的な競合は避けたいというのが本音だろうと推察する。

 また、この動きの背景には、ハイパースケーラーとして競合するクラウドインフラを提供するMicrosoftやGoogle Cloud、Oracleがいずれも業務アプリケーションおよびそこで利用するAIエージェントを提供しており、それぞれにオーケストレーションプラットフォームも手掛けていく姿勢を見せていることがある。その点、自ら業務アプリケーションを手掛けていないAWSは、ニュートラルな立ち位置をアピールできる。同社ならではのこのユニークな立ち位置が果たして奏功するか、興味深いところだ。

 一方、業務アプリケーションベンダーやITサービスベンダーからすれば、マルチクラウド対応のプラットフォームとしてユーザーにアピールできるところがある。ハイパースケーラー各社を選択肢にできるからだ。

 その意味では、業務システムのプラットフォームにおける新たな主導権争いが繰り広げられる可能性もありそうだ。そうした中でユーザーニーズがどういう方向に動くか、注視していきたい。

著者紹介:ジャーナリスト 松岡 功

フリージャーナリストとして「ビジネス」「マネジメント」「IT/デジタル」の3分野をテーマに、複数のメディアで多様な見方を提供する記事を執筆している。電波新聞社、日刊工業新聞社などで記者およびITビジネス系月刊誌編集長を歴任後、フリーに。主な著書に『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。1957年8月生まれ、大阪府出身。

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