検索
特集

米国のAI規制は「州ごとに違う」 ビジネス視点で対策を考えるCIO Dive

米上院で、米国各州によるAI規制を禁止する条項を削除する修正案が可決された。米国内で統一されたAI規制法の不在が続く状況は企業にどのような影響を与えるのか。

Share
Tweet
LINE
Hatena
CIO Dive

 トランプ政権誕生後、米国のAI規制の方向性が大きく変わっている。その中で、AI規制をめぐる法案にまた新たな変化が生じた。包括的なAI規制法の不在が企業に与える影響とその対策とは。

なぜAI規制法が州ごとに乱立? 企業が取るべき対策とは

 米連邦議会上院で2025年7月1日(現地時間)、州や自治体によるAI規制の立案と制定を10年間禁止する条項(以下、禁止条項)(注1)を「大型税制改正を含む予算調整措置法案」(One Big Beautiful Bill Act:OBBBA)から削除する修正案が、賛成99、反対1で可決された。大型税制改正を含む予算調整措置法案は予算や国家安全保障など、複数の立法事項を一括で可決することを目的とするものだ。

 予算案が下院に提出される中、州や自治体レベルでのAI関連法規制を認める条項が撤回されたことはAI技術規制の複雑さを示すものだ。そして、企業はAI規制をめぐる状況の目まぐるしい変化にキャッチアップする必要がある。

 今回、州や自治体によるAI規制を禁止する条項が同法案から削除された過程には、もともと正反対の立場を取ってきた2人の人物が関与している。

 禁止条項の削除に関与した人物の1人目は、禁止条項に反対する、マーシャ・ブラックバーン氏(共和党)だ。2人目も同じく共和党で、禁止条項に賛成するテッド・クルーズ氏だ。両者は州や自治体によるAI規制の立案と制定を禁止する期間を10年間から5年間に短縮し、特定の用途に関する例外を設ける(注2)妥協案を提出したものの、2025年6月にその妥協案を取り下げた。

 ブラックバーン氏はその後、禁止条項を削除する修正案の提出を主導。クルーズ氏は賛成票を投じた。

 「クルーズ氏の協力には感謝するが、現在の法案の文言は“最も保護を必要とする人々”にとっては不十分だ。連邦レベルで『子どもオンライン安全法』(KOSA:Kids Online Safety Act)やオンラインプライバシーの枠組みなどの包括的な法律が成立するまでは、州による国民の保護を妨げるべきではない」と、ブラックバーン氏は電子メールによる取材に答えた。

 禁止条項に反対する立場からは、今回の決定を歓迎し、包括的なAI法制化の必要性を強調する声が上がった。非営利の消費者保護団体Public Citizenのジェイ・ビー・ブランチ氏(ビッグテックアカウンタビリティアドボケイト)は、電子メールでの取材で次のように述べた。「消費者や労働者、クリエイターをAIによるリスクから守れる、実行可能な連邦レベルのAI法制が必要だ。同時に、州が迅速にAIの“害”に対応できる余地も確保すべきだ」

 共和党上院議員17人による書簡でも、禁止条項への反対が表明された。17人の中には、アーカンソー州知事のサラ・ハカビー・サンダース氏も含まれており、同氏はブラックバーン氏の禁止条項削除の成功を称賛した(注3)。

“連邦レベルの規制は存在しない状態”にCIOは危機感を

 AI規制を巡る状況は日々変化している。CIO(最高情報責任者)は、自社のコンプライアンス体制(注4)の強化と、社内におけるAIリスクの抑制に注力する必要がある。

 「連邦政府レベルのAI規制が存在しない状態は『一息つける猶予がある』のではない」。AIベンダーDecidr.AIのデイビッド・ブルデネル氏(エグゼクティブディレクター)は、こう警告する。「EU(欧州連合)にはAI規制法があり、中国はAIの導入を推進している。米国企業が立ち止まる余裕はない」

 ブルデネル氏は、CIOが取り組むべき施策として既存のAIに関する社内ガイドラインの整備やAIの意思決定プロセスの可視化、今後の社会的監視への備えを挙げる。「優秀なCIOは既に動き始めている。規制当局だけでなく従業員や顧客、投資家の目も厳しくなっている」

 AIに特化した州法の制定が引き続き可能となったことで、米国では統一されたAI規制の枠組みがない状態が続くとみられる。

 法律事務所Alston & Birdのジェニファー・エベレット氏(テクノロジー・プライバシー部門のパートナー)は次のように述べる。「包括的なAI法が存在しないとはいえ、監視がないわけではない。連邦レベルでの法整備が進む可能性もあるが、企業は当面、州ごとの個別法令に対応する必要がある」

© Industry Dive. All rights reserved.

ページトップに戻る