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なぜ企業は「福利厚生」にIT投資を始めた? 2025年上半期投資レポート

日本企業のIT投資は業務効率化から人材定着や働き方改革へとシフトしている。特に「福利厚生サービス」への投資が増えているという。

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 これまでのIT投資は業務効率化が主な目的であったが、深刻な人手不足や多様な働き方への対応を背景に、その焦点は「人材の定着」や「働き方改革」といった、より従業員に寄り添った領域へと移行しているようだ。IT投資の現在地から企業におけるIT戦略を再考しよう。

IT投資は次のフェーズに 各業界の投資状況を確認しよう

 ミツモアは2025年8月27日、同社が運営するオンライン見積もり比較・受発注サービス「ミツモア」のデータを基に、2025年上半期(1月〜6月)のビジネスサービス動向をまとめたレポートを発表した。対象件数は7万2087件で、日本企業の投資の方向性や業界別の戦略が分かる

 報告によると、深刻な人手不足を背景に企業のIT投資は従来の業務効率化中心から人材定着や働き方改革を目的とした領域に移行している。特に「福利厚生サービス」が前年同期比196.3%増、「ストレスチェックシステム」が医療・福祉業を中心に急伸しており、従業員の心身の健康を支える「人中心の投資」が顕著な潮流となった。会計ソフトや勤怠管理システムなどの基盤業務系ツールは依然として高い需要を保つも、成長率は安定に向かっている。基本的なIT投資が一巡し、次の段階へ移行していることが示唆されている。

 サービス依頼数ランキングにおいて、会計ソフトや勤怠管理システムが上位を維持したが、人材確保や働き方の多様化に関連するサービスが急伸している。法人携帯や法人用IP電話(前年比223.2%)も大きな伸びを示しており、ハイブリッドワーク対応やセキュリティ確保、AI活用を視野に入れた通信基盤整備が進んでいる。

 業界別の投資傾向も明確になった。IT・インターネット業界はSFA/CRMや採用管理システムを活用し、顧客獲得と組織基盤強化を並行する「先行投資型」の姿勢が特徴だ。医療・福祉や製造業は人材不足対応と持続可能な組織づくりに注力し、健康管理や人事評価といった従業員支援システムへの関心が高まった。飲食業や小売・美容業はキャッシュレス決済や予約システムなど、売り上げに直結するサービスの導入が増えている。建設や物流業では「2024年問題」に関連した労務管理・工事管理・車両管理システムへの投資が増加し、規制対応と効率化が両立課題となっている。

 製造業では社食サービス(前年比316.0%)、福利厚生サービス(前年比195.3%)、ストレスチェックシステム(前年比321.3%)が伸び、従業員の働きがいを支える投資が拡大している。RPAツールや受発注管理システムも増加し、生産現場の効率化と人材確保の両面を強化する構図が浮かんだ結果となった。

 IT・インターネット業界において、法人用IP電話(前年比276.9%)、クラウドPBX(前年比155.4%)、Web会議ブース(前年比183.7%)が導入検討を集め、ハイブリッド環境でのセキュリティ強化やAI活用が進展している。医療・福祉業界において、勤怠管理システムが全業種中で高い割合を占め、ストレスチェック(前年比306.3%)、福利厚生(前年比214.3%)が伸びており、従業員ケアを経営課題の中心に据える姿勢が明らかになった。

 美容・サロン業界は予約システムの活用が拡大し、「LINE」マーケティングやPOSレジ・キャッシュレス決済の需要も高まっている。顧客接点から決済、再来店促進までを一貫して管理する「デジタル経営」への移行が進んでいる。建設業では工事管理システムの依頼の90.8%が同業界からであり、インボイス制度対応も含めた請求書管理システムの伸び(前年比202.6%)が特徴だ。


業界別サービス投資戦略ポジションマップ(出典:ミツモアのプレスリリース)

 本調査結果は、日本企業のIT投資が単なる効率化段階を超え、従業員の健康やエンゲージメント、規制対応、通信基盤整備など、より広範かつ戦略的な領域へ拡大していることを示している。

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