「あの人しかできない」はもう古い 製造現場の手戻り、残業をどう減らす
多くの製造業で、特定の担当者に依存する属人化が手戻りや残業増加の要因となっている。調査結果を基に原因を分析し、解決策を探る。
人手不足や世代交代が進む製造業において、属人化は避けて通れない課題だ。特定の熟練者しか知らないノウハウや勘に頼る作業は、業務の非効率化だけでなく、人事異動や退職で知識が失われるリスクをはらんでいる。
キャディの調査によると、多くの製造業で属人化が発生していることが判明した。調査結果から浮かび上がる属人化の深刻な実態と、その対策を紹介する。
製造業の属人化の実態と対策
キャディは2025年9月18日、製造業における属人化リスクとAI活用に関する調査レポートを発表した。調査は同社が主催するセミナー参加者を対象にオンラインで実施し、製造業120社163人から回答を得ている。
調査によると、製造業従事者の98.7%が「特定の人しか分からない作業や判断が存在する」と回答しており、属人化が現場に広く根付いている実態が明らかになった。特に6割が業務の2〜3割、約3割が業務の半数程度が属人化していると回答し、業務効率や生産性に深刻な影響を及ぼす可能性が示されている。
人事異動が及ぼす影響については、「手戻りや再設計」が29.4%で最多となり、次いで「残業増加」が23.4%を占めた。人員の異動によって知識やノウハウが断絶し、業務効率が低下する構図が浮かび上がった。「品質劣化」などのリスクも指摘されており、コストだけでなく製品価値そのものにも影響が及ぶ状況がうかがえる。
属人化が解消されない理由としては、「経験や勘に依存しているため標準化が困難」が33.7%で最多となり、「記録やデータが散在しており活用できない」が25.2%で続いた。現場にはデータ自体は存在するが、体系的に整理されず資産化できていないことが背景にあるとみられる。従来のマニュアル整備やOJTといった方法だけでは限界に達しているとの見方も浮かび上がる。
解決策として注目されているのがAIの活用だ。回答者の約半数にあたる49.1%が「AIによる知見や判断の検索・提案」を有効な手段と答えた。単なる効率化にとどまらず、業務ノウハウを体系化し再利用可能にする基盤としてAIを導入することへの期待が現場で高まっていることが示されている。
今回の調査結果からは、製造業が直面する属人化リスクの深刻さが改めて浮き彫りとなった。業務の2〜3割、場合によっては半数が「特定の人しか分からない」状態にあるという回答が多数を占め、人事異動のたびに具体的な損失が発生している。これは人材不足や世代交代が進む製造業にとって経営課題の一つとして位置付けざるを得ない状況だ。
キャディは今回の調査を通じ、属人化の問題が単なる業務効率化の範ちゅうを超え、経営リスクとして認識されるべき段階にあることを指摘している。AIの導入によって知識や判断を検索、提案可能にする仕組みを整えることは、製造業の競争力維持に資する現実的なアプローチとしている。
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